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因果応報―終わりの始まり―(前編) ◆KKid85tGwY 【因果応報】いんが―おうほう 人は良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるということ。 元々は仏教語。行為の善悪に応じて、その報いがあること。 「因」は因縁の意で、原因のこと。「果」は果報の意で、原因によって生じた結果や報いのこと。 ◇ 覚悟が五人を戦いに誘う。 何の覚悟か? 命を賭して戦う覚悟か? 屍を踏み越えて前に進む覚悟か? 自らを正義と断じて悪を討つ覚悟か? 覚悟が五人を戦いに向かわせ、戦いはいずれ結末を迎える。 誰一人予想もしていなかった結末へ向けて―――― ◇ 猥雑なネオン。 薄汚れた路地。 打ち捨てられた廃ビル。 生活する人が無く機能が死んだ市街地は、世紀王の言葉を借りれば“退廃と虚飾に塗れた愚かな街”。 その街の空気を例えるならば、凍り付いていると言う形容が相応しかった。 寒さではない。 ただ対峙する五人の男女、 無双龍ドラグレッダーと契約を交わす仮面ライダー・城戸真司にとっても、 ダン・オブ・サーズデイを操縦するため改造を受けたオリジナル・ヴァンにとっても、 不老不死のコード所有者・C.C.にとっても、 ローザミスティカに拠って命と魂を持つ薔薇乙女・翠星石にとっても、 日本科学技術大学教授・上田次郎にとっても、 その場の空気は刺すような緊張感に満たされていた。 五人が対峙する相手は只一人。 只一人にして世界と対し、蹂躙せんとする魔王。 ゴルゴムの世紀王・シャドームーン。 命を賭して戦う覚悟を決めても尚、気圧されそうなほどの威圧感を湛えている。 上田などあからさまに腰が引けている。 それでも逃げ出さないのだから、上田なりに意を決していたのだろう。 「っしゃー!!!」 気勢を上げてシャドームーンへ最初に掛かって行ったのは、真司が変身した仮面ライダー龍騎。 何の作為も無く、真っ向から掛かって行く。 しかし全く考えなしと言うわけではない。 龍騎が臆することなく立ち向かっていくことで、仲間の士気を上げるためだ。 人の域を超えた仮面ライダーの身体能力を十全に活かし、シャドームーンへ向けて構えを取ったまま間合いを詰める。 その淀み無さは龍騎の潜り抜けた歴戦を容易に想起させた。 「チェェェェス!!!」 続けてヴァンも掛かって行く。 やはり何の作為も無く、真っ向から。 元々ヴァンは小賢しく知恵を働かせる人間ではない。 ゆえに戦うと決めれば、如何なる相手であれ臆することなく立ち向かって行く。 人のそれとは思えぬオリジナルの身体能力を十全に活かし、シャドームーンへ向けて構えを取ったまま間合いを詰める。 その淀み無さはヴァンの潜り抜けた血風を容易に想起させた。 「す、翠星石を置いて行くんじゃねぇです!!!」 二人に遅れること翠星石も掛かって行く。 直前まで脚を震わしていたとは思えぬ勢いで、シャドームーンへ向けて飛び掛って行く。 これもやはり何の作為も無く、真っ向から。 「ベストを尽くせーっ!!! はっはっはっはっは……」 三人の背中にエールを送るのは当然、我らが上田次郎。 数々の難事件を解決に導いてきた上田が、シャドームーンにも臆することなく声援を送る。 無論、三人の邪魔にならないようシャドームーンと充分に距離を取った場所から一歩も近寄ることは無くだ。 この適切な状況判断力と、仲間の意気を邪魔立てしない謙虚さこそが上田の真骨頂と言えるだろう。 「…………」 その上田に冷たい視線を送るのはC.C.だ。 上田をまるで路傍の塵のごとくに見下している。 「し、仕方が無いだろう! 確かに私は通信講座で空手をマスターしているし、ブルース・リーについての論文を書いたこともある。 しかしあの状況では数多くの修羅場を潜り抜けてきた私でも、援護もしようが無い!」 龍騎のそれ単独でもAP(アタックポイント)に換算して200APに達する拳が、砲弾のごとく風を巻きシャドームーンに襲い掛かる。 同時にヴァンの操る伝説的な刀工・新井赤空が製作した殺人奇剣・薄刃乃太刀が、 それ自身で生を持つがごとくに蛇行しながら、シャドームーンに襲い掛かる。 白銀の手が赤い拳を受け止め、紅い刀身が薄刃乃太刀の蛇行を遮る。 シャドームーンは片手で龍騎の攻撃を、サタンサーベルでヴァンの攻撃を防いでいた。 しかし龍騎も前回の交戦時のように、容易く力負けする事は無い。 シャドームーンの力を上手く受け止めていた。 更にそこから瞬時に蹴りを放ち、反対方向から薄刃乃太刀の切っ先が再度襲い掛かる。 龍騎とヴァンはまるで事前に打ち合わせでもしていたかのように、巧みな連携でシャドームーンを挟み撃ちにする。 シャドームーンの恐るべきは、その連携を基本スペックの高さを並外れた戦闘センスで駆使して捌き切っている所だ。 人の反射神経を超えた速度で行われる龍騎たちとシャドームーンによる攻防。 かつてはアマゾンの巨大鯰・デビルファンクやボルネオの人食い鰐・ブラックポルサスと戦った経験がある上田でも、 あれに乱入するのは無謀と言う他ない。龍騎やヴァンの脚を引っ張るのが落ちだろう。 さりとてあれだけ敵味方が接近して高速戦闘を行われては、援護射撃することもできない。 「全く、あれだけ意気込んで来ておいて何もできないのか」 「……では君が援護したらどうだ!?」 「少しは考えて物を言え。あんな所に援護できる訳ないだろう」 それなりに腕に覚えのあるC.C.だが、事情は上田と同様である。 C.C.の能力で戦闘速度に介入するのは至難。 先刻のシャドームーンとの戦いの際にはブリッツスタッフの火球でサタンサーベルを弾いたりしてヴァンを援護できたが、 あれは直接戦闘している場面から外れた場所ゆえに可能だったのだ。 同じような機会は易々と期待できないだろう。 「自分ができないことを人に求めるんじゃない!! どういう教育を受けているんだ!」 こうして五者五様の戦端が開かれた。 暴虐の限りを尽くした魔王を倒すために。 誰一人予想もしていなかった結末へ向けて―――― ◇ シャドームーンの頭部で大きく輝く翠色の双眸・マイティアイが五者の姿を映す。 接近戦を仕掛けてくる龍騎。 人知を超えた威力の拳は、的確にシャドームーンの頭部を狙って来る。 中距離から曲線軌道を描く刃で援護をするヴァン。 龍騎の拳と全く同じタイミングで、シャドームーンの頭部を反対方向から狙う。 更にその後ろから飛来する翠星石。 遠方では道化た会話をしている上田とC.C.。 その全てをマイティアイが捕捉。 マイティアイが得た映像情報は改造された脳に送られ、瞬時に処理されて対処法が算出される。 そして導き出された対処法は、改造を受けた五体が即座に実行された。 左手で龍騎の拳を掴み、右手のサタンサーベルでヴァンの刃を止める。 そこから淀むことなく流れるように変化していく龍騎とヴァンの連携。 秒間を、一撃一撃が人の身ならば必殺と言える威力の拳で、蹴りで攻め立てる龍騎。 しなる刃を己の手足のごとく振るい援護するヴァン。 しかしゴルゴムの科学技術の粋を集めて造り上げられたシャドームーンの性能は、それらに一部の隙も見せず対応する。 片手間にヴァンの刃を受けながら、執拗に打ち込んで来る龍騎の拳を軽々と払い落とす。 そして返す刀に左肘から伸びるエルボートリガーで龍騎を斬りつけた。 エルボートリガーは龍騎の装甲を切り裂き、更に超振動を叩き込む。 岩石を粉微塵にする超振動により、龍騎は胸の装甲から火花を散らしながら吹き飛んだ。 たたらを踏む龍騎に追撃をするべく歩を進めるシャドームーン。 ヴァンが刃をうならせて牽制するが、やはり片手間で捌くシャドームーンの足止めにもならない。 巧みにシャドームーンの死角を突こうとするヴァンの攻撃だが、マイティアイの広視界に尽く捕捉していた。 その広視界が赤い薔薇の花弁で埋め尽くされる。 「しっかりするです真司!!」 体勢の崩れた龍騎を後ろから支えたのは翠星石。 翠星石が真紅のローザミスティカによって得た能力、薔薇の花弁を飛ばしていた。 体勢を立て直す龍騎の横を通り抜け、翠星石はシャドームーンへ向かって行く。 「まったく! やーっぱり真っ赤っか人間は、翠星石が居なきゃなんにも出来やしねーんですから!」 「……って、待てよ翠星石!!」 翠星石は間合いを詰めながら、右手から無数の薔薇の花弁、 そして水銀燈のローザミスティカで得た力により左手から無数の黒羽を撃ち出す。 どちらも射界が拡散する発射武器。 至近距離ならば回避は至難。それが翠星石の判断。 「威力、だけではなく技の性能全体が向上している……」 誤算はシャドームーンにそもそも回避する必要がなかったと言うこと。 シャドームーンを覆う装甲・シルバーガードは花弁も羽も全て防ぎ切る。 自身の物を含めて実にローザミスティカ四個分の出力でも、シルバーガードを抜くことは出来なかった。 しかし翠星石には次の手が見えている。 シャドームーンにはシルバーガードで守られていない箇所が存在することを以前の戦闘から学んでいた。 翠星石はそこに狙いを付ける。 発射。するよりもシャドームーンの動きは早かった。 翠星石に打ち出されるシャドームーンの右拳。 その右拳に薄刃乃太刀が巻き付き、翠星石が咄嗟に形成した不可視の障壁が阻む。 が、止まらない。 薄刃乃太刀をヴァンごと引っ張り、障壁を破壊しても尚、 シャドームーンの拳の勢いは殺し切れず、翠星石に打ち込まれた。 吹き飛ぶ翠星石を今度は龍騎が受け止める。 「翠星石が接近戦をするのは無茶だって!!」 「うぅ~……こ、こんなの屁でもねぇですぅ……」 翠星石は幾つもの強力な武器を使いこなすことができるが、 龍騎と比較すれば、明らかに近接しての戦闘は不得手である。 しかし翠星石は苦悶しながらも再度シャドームーンに向かって行こうとする。 慌てて留めようとする龍騎の背後から、C.C.の檄が飛ぶ。 「戦力を分散したり出し惜しみしている場合か!」 「すいません……」 「……だな」 素直に謝るヴァンと納得した龍騎は、各々切り札(カード)を切る決意をする。 その隙を、当然マイティアイは見逃しはしない。 シャドームーンの伸ばした指先へ、シャドーチャージャーからの光が収束。 収束した光は指先からシャドービームとして龍騎たちに放たれる。 龍騎は翠星石を突き飛ばしてシャドービームの射界から外す。 その反動で自分も地面を転がって、シャドービームを回避。 更に体勢を立て直した時には、その手にバックル部分のデッキから抜き取ったアドベントカードがあった。 回避とカードの抜き取りを同時に行う。 ライダーバトルの歴戦を潜り抜けてきた龍騎だからこその芸当。 龍騎は炎を周囲に纏いながら、左腕にある龍召機甲ドラグバイザーツバイに装填(ベントイン)する。 進化を司るカードを。 『SURVIVE』 電子音声が鳴り、炎が晴れる。 そこにはより強大な装甲を纏った龍騎――仮面ライダー龍騎サバイブが顕現していた。 「変身!」 今度はヴァンの声が響く。 その場の者が龍騎の変身に気を取られている内に、ヴァンは薄刃乃太刀にカードデッキを映していた。 腰の部分にVバックルが現出。そこにカードデッキを装填する。 テンガロンハットのリングを鳴らし薄刃乃太刀でVの字を描くヴァンに幾つもの虚像が重なる。 虚像はヴァンの肉体を覆う装甲として顕現した。 仮面ライダーナイトとして。 幾多のミラーモンスターの命を吸った仮面ライダー二体、龍騎とナイトが並び立つ。 それを前にして、シャドームーンはあくまで傲岸に笑う。 「フッ、ようやく戦いらしくなりそうだ」 龍騎とナイト、そして翠星石が再び同時攻撃に出る。 龍騎の攻撃。ドラグバイザーツバイによるビーム射撃。速射性に優れたそれを連続でシャドームーンに叩き込む。 ナイトの攻撃。翼召剣ダークバイザーによる斬撃。変身して更に高まったヴァンの身体能力によるそれは、人の視認できる速度を軽く凌駕していた。 翠星石の攻撃。庭師の如雨露によって急成長させた植物での打撃。高密度の繊維で形成された植物が砲弾のごとき速さでシャドームーンに迫る。 異能の戦士たちによる三点同時攻撃。 シャドームーンの対応もまた同時の物となる。 右手のサタンサーベルでダークバイザーを止め、 左手から電撃状のシャドービームで植物を焼き払い、 ドラグバイザーツバイのビームはシルバーガードに任せ、防ぎ切る。 『AD VENT』 ビームを放ちながら、龍騎はドラグバイザーツバイにアドベントカードをベントインしていた。 シャドームーンの背後の民家に有る窓ガラスから金属装甲の怪物が姿を現す。 赤く伸びた胴体。鋭く伸びた爪と牙。獰猛さと威厳を兼ね備えた巨体は、正に伝説の神獣である龍の姿。 無双龍・ドラグレッダーがサバイブ(進化)したミラーモンスター、烈火龍・ドラグランザー。 時間差のついた四点目への攻撃を行うドラグランザー。 ドラグランザーはセルシウス度に換算して7000°Cに達する超高熱火炎弾を口内から発射。 三点同時攻撃を防いでいたシャドームーンは、背後から直撃を受ける。 シャドームーンを中心に起こる埒外な高密度の爆発、そして炎上。 爆炎に煽られて大地に叩き付けられるシャドームーン。 ナイトは爆炎に包まれるシャドームーンから慌てて飛び退いた。 「おいっ!! 俺も焼け死ぬとこだろ!」 「わりいわりい。でも時間は稼げてるだろ?」 「と、とんでもねー熱さですぅ……」 龍騎と翠星石もシャドームーンを包む炎熱を眺める。 地上に太陽が顕現したかのごとき炎熱の中でも、シャドームーンは起き上がろうとしている。 やはり並ならぬ耐熱性能を持っているようだ。 しかしせっかくのチャンスも、この炎熱から距離を取らなければならない状況では追撃もままならない。 爆炎を吐き出した烈火龍自身を除けば。 ドラグランザーは大顎を開けて、炎の中のシャドームーンに食らいついた。 人一人を喰らい尽くせるほどのドラグランザーの大顎がシャドームーンを噛み――砕けない。 両手でドラグランザーの顎を押し開けたシャドームーン。 更にシャドームーンは電撃状のシャドービームを両手から発射する。 ドラグランザーの口内で響く雷鳴。 口の中で放たれたシャドービームに耐えられず、ドラグランザーはシャドームーンを放してのた打ち回る。 『SURVIVE』 難なく着地するシャドームーンの耳に、電子音声が届いた。 シャドームーンは自分がドラグランザーに手間取っている内に、敵に態勢を整える時間を与えていたと悟る。 もう一枚存在した、進化を司る切り札(カード)を切る時間を。 ナイトを突風が包む。 突風が晴れた時には、ナイトはより強大な蒼い装甲に身を包み、 仮面ライダーナイトサバイブへと進化していた。 「よっしゃー!! こうなったら、もう負ける気はしないぜ!」 並び立つ二体のサバイブ。 龍騎はかつて何度も共闘した、秋山蓮の変身するナイトのことを思い出す。 龍騎とナイトのコンビの強さは誰よりも良く知っていた。 「次はこのカードで行くぜ!」 「あん? 俺も同じカードを使えばいいんだな?」 アドベントカードを見せてくる龍騎に、ナイトも素直に従う。 何しろナイトが慣れない変身時もサバイブのカードを使った際も、龍騎がシャドームーンを相手に隙を作ってくれたのだ。 ライダーバトルにおいて龍騎に一日の長があることは明白だった。 翠星石がその二人の様子を複雑な面持ちで後ろから眺めていた。 『『SWORD VENT』』 龍騎とナイトの電子音声が完全に重なる。 龍騎がドラグブレードを、ナイトがダークブレードを抜くのも同時。 厚さ60cmの鉄板を一刀の下に切断するドラグブレードと、それをAPに換算して1000上回る威力のダークブレード。 二人のサバイブの剣がシャドームーンに斬りかかる。 デッキにより変身する仮面ライダーの中でもトップクラスの性能を誇る二人の剣撃は、瞬きほどの隙も許さない速さ。 それが上段、中段、下段、袈裟切り、逆袈裟、横薙ぎと剣筋が不断に変化していく。 受けるシャドームーンの剣はサタンサーベル一本。 いかにシャドームーンと言えど後手に回り、追い詰められ、やがてサタンサーベルでは受けきれなくなる。 上段からのドラグブレードの一撃をサタンサーベルが既の所で受け止める。 がら空きとなったシャドームーンの胴体部分。 刹那に生まれた隙を見逃さず、ナイトのダークブレードが狙い打つ。 金属と金属がぶつかり合い火花を散らす甲高い音が鳴り響く。 ダークブレードを受けたのは左のエルボートリガー。 エルボートリガーの超振動を受けて、ダークブレードが弾き飛ばされた。 しかしナイトは尋常ならざる反応速度で剣筋をそこから更に変化させる。 狙い打ったのはエルボートリガーと左肘の接合部分。 シルバーガードに守られておらず、おそらく超振動もしていないだろうと推測された部分である。 ナイトの推測は当たる。 ダークブレードの威力がナイトの類稀な剣の技量で打ち込まれ、エルボートリガーは根元から折れ飛んだ。 ナイトは更にシャドームーンの胴体を狙って、ダークブレードを振るう。 荒くれ者の理想郷(パラダイス)エンドレス・イリュージョンの血風で鍛え抜かれた、ヴァンの技量のみが可能にする不断の連続攻撃。 それすらシャドームーンはサタンサーベルで受け止めた。 しかしナイトの攻撃をサタンサーベルで受けたと言うことは、龍騎に対して無防備になったと言うこと。 龍騎は反対方向からシャドームーンの胴体を目掛けてドラグブレードを振るった。 シャドームーンと言えど、絶対に反応し切れない間合い。 龍騎とナイトがそう確信した。 その瞬間。正にドラグブレードがシャドームーンを切り裂く寸前。 シャドームーンの腰に在るシャドーチャージャーがキングストーンの光を放った。 シャドーチャージャーから直接前方へ電撃状のシャドービームを発射。 幾つもに枝分かれして空気を切り裂き射界を広げて行くシャドービームは、龍騎とナイトにも直撃。 膨大なエネルギーに拠る、破壊の奔流。 それはまともに受けた龍騎とナイトを、玩具のごとくに10メートル以上も後方へ吹き飛ばした。 「真司!! ヴァン!」 後ろで見ているしかなかった翠星石が悲鳴のような声が飛ばす。 それに答えるように龍騎とナイトも立ち上がるが、身体が見るからに身体が重そうだ。 強い。 判っていたはずのことを、龍騎もナイトもここに来て改めて実感していた。 シャドームーンの付け入る隙の見当たらない強さを。 カシャ カシャ カシャ カシャ 足音を鳴らしシャドームーンが悠然と、しかし確実に近付いてくる。 強者も、弱者も、男も、女も逆らう全てを討ち果たすために。 避けることは許されない。 この強大な怪物を倒さないことには、進むべき未来は無いのだ。 ◇ この世の物とは思えぬ灼熱の炎が舞い、大気を焼く雷が鳴る。 仮面ライダーとシャドームーンの戦いは、遠巻きに眺める上田にもその脅威が伝わってくるほど激しい物だった。 近付くこともできない。どころではなく、距離を隔てても危機感を覚えるほどだ。 実際、上田は何度か気絶しかけた。 「……あの様子では、銃で援護しようもないな」 仮面ライダーとシャドームーンの高速接近戦闘を眺めて、上田は手元でベレッタを弄びながら一人ごちていた。 人間が相手ならば必殺の武器となる拳銃も、シャドームーン相手では威嚇にもならない。 上田はいよいよ何をしに来たのか判らない状態だった。 「建物の崩落に巻き込まれても無事だった奴だ。銃が効かないことなど判りきっていただろう」 C.C.が呆れたように口を挟む。 戦いが始まる前は大きな口をきいていたが、C.C.もやはり上田と事情は同じ。 四階建ての建物の崩落を無傷でやり過ごしてような相手に、C.C.では威嚇の手段も持っていない。 それどころか覚悟を決めたC.C.ですら、シャドームーンには気圧されそうになっているほどだった。 ――――覚悟を決めた? C.C.は漠とした違和感を覚える。 自分の心中に。 『私は行くぞ。やられっぱなしでいるのは性に合わん。この男を見て決心がついたよ。こんな……』 C.C.は上田を見て決心がついたと言ったことを思い出す。 決心がついた? 何の? シャドームーンと戦う決心だ。 しかし、何故大袈裟に決心など必要だった? C.C.は死なないはずなのに。 例え死んだとしても、それはC.C.にとって―――― 「……Lはそう考えてはいなかったみたいだがな…………」 上田の言葉でC.C.は現実に引き戻される。 今は些細な懸念に惑っている場合ではない。 当面の問題から、意識を離すべきではないだろう。 「……Lがどうした?」 Lの名前が出た途端、C.C.の態度が変わる。 同行していた期間は短いが、Lの頭脳の優秀さはC.C.も認めるところだった。 そのLの言葉とあってはC.C.とて無視はできない。 例え、それが上田の口を借りた物であっても。 「いや、Lとシャドームーンが建物の崩落に巻き込まれた時の話をしたことがあってな……あれは私が古代ローマの浴場設計技師だった頃……」 「おい!」 「……あれはLと水銀燈とで車に乗って移動していた時の話だ……」 そして上田にとって、Lはより思い入れのある人物だった。 優秀な知性と強靭な意志で殺し合いに立ち向かっていたLの存在は、上田にとってどれほど心強い存在だったか。 いつもの浮ついた様子は鳴りを潜め、上田はLとの会話を語り始めた。 ◇ 「……しかしあの、シャドームーンは展望台の崩落に巻き込まれて傷一つ無かったと言うんだろ…………」 そう切り出したのは上田がLと水銀燈を乗せて車を走らせていた時だった。 上田は注意深く車を運転しながら、心なしか沈んだ声で語り掛ける。 水銀燈は鞄の中で眠っているため、上田が語り掛ける相手は必然的にLしかいない。 「そんな相手をどうやって倒すんだ? 我々の持っている武器では、どう頑張っても通用しないだろう?」 「そのように判断するには根拠が不充分でしょうね」 Lは助手席で思案気にしていたが、上田の疑問に即座に反応する。 「私はシャドームーンを直接知らないので、詳細名簿と光太郎君や上田さんや水銀燈さんの話でしか判断のしようがありません。 それだけでもシャドームーンが尋常ではない能力を持っていることは判ります」 シャドームーンと接触したことが無くても、Lならば間接的に得た情報だけでその危険性は理解しているはずだ。 しかし上田には、どこかLのシャドームーンに対する認識が軽いような印象を受けた。 「それだからこそ展望台の崩落に巻き込まれて無傷だった理由は、シャドームーンの耐久力以外で説明が付くんです」 「え? ……あ、ああ! なるほどあれのことか。あれに気付くとは、Lさんも流石は探偵を名乗るだけのことはある。 私ほどではないが、中々優秀な頭脳を持っているじゃないか」 乾いた笑いを浮かべる上田は、当然のごとくLの言っていることの意味が判っていない。 いっそ清々しいくらいさっぱり判っていない。 Lもそれを悟っているようで、説明を続ける。 「建物の崩落と言うのはその質量全てが敷地内を均等に落下する、と言うことではありません。 建造物が無作為に破壊されている状態なので、瓦礫にも大小や形状の不均等が生じていたでしょう。 それらが不規則に崩れて落ちているわけですから、空間が発生する蓋然性も無視できません。 勿論、微細な破片まで落ちない。と言うことは考えられませんが」 上田がLと話していて驚かされるのは、常に淀み無く論理的な話しぶりができることとその博識である。 Lに聞けばどんな疑問にも明確な回答を得られるのではないか。 そんな幼稚な観念さえ浮かんでくるほどだ。 「事実、建物の崩落事故で生存者が出るケースもそれほど珍しくありません。普通の人間の、です」 「……待て。では君はシャドームーンが運良く瓦礫の落ちてこない空間に居合わせたから、偶然無傷で済んだと言いたいのか?」 「いいえ、運良くそんな空間に居合わせたのでは無いでしょう。しかしシャドームーンは建物内で拘束されていたわけではありません。ある程度は動くことができます」 「…………だが、自分で移動して瓦礫の落ちてこない空間に逃げ込んだと言うのは無理があるんじゃないか? そもそもそんな空間が都合よく発生するとは限らないんだ……」 上田は展望台がどんな建物であったかは知らない。 しかし水銀燈の話からも、鉄筋を基礎にコンクリートで構造を形成していった建造物であると見当は付く。 それが自重を支えきれなくなって内側に崩壊したのだから、鉄筋やコンクリート片の大きさにも差が出てくる。 しかも建物は鉄筋やコンクリート以外の、様々な形状の物体も存在しているはずだ。 それらが不規則に崩れ落ちていけば、瓦礫の重なり方によっては人間が入れる空間が形成されても不思議は無い。 しかしどんな瓦礫の重なり方を下としても、比較的細かい破片が全く落下しない空間と言うのは考え辛い。 そもそもシャドームーンが居た場所に、偶然そのような空間が形成され公算は極めて小さい。 まして崩壊する建物内で、どこに空間が形成されるかを見極めてそこに移動するなど、 あまりにも荒唐無稽な想定に思えた。 「確かに無理がある想定です。私にそんな真似は不可能です。上田さんでも無理だと思います。 しかしシャドームーンにとってはどうでしょう?」 そこで上田は、自分が普通の人間の感覚で事態を想定していたことに気が付く。 シャドームーンは人間のそれを遥かに凌駕する能力を幾つも併せ持つ持つであろう、字義通りの超人なのだ。 「光太郎君や上田さんや水銀燈さんの話から推測するに、シャドームーンはその五感も人間のそれとは隔絶した性能を持っています。 建物が崩れ始めてから落下する瓦礫に反応することも可能だと考えられます。 そしてシャドームーンなら、落下してくる瓦礫もある程度は破壊することが可能です」 Lは知らないが、正にLの想定を可能にする視覚器官をシャドームーンは有していた。 マイティアイならば崩壊する建物内でも、落下してくるあらゆる瓦礫を把握するほどの認識が可能だ。 そして上手く巨大な瓦礫が折り重なって発生した空間に入り、更に落下してくる細かい破片をシャドービームなどで破壊すれば、 シルバーガードの耐久力を有するシャドームーンならば、無傷での生存も理論上は可能である。 「……まあこれは水銀燈さんの話から構築した仮説の一つに過ぎませんけどね。単純に偶然無傷でやり過ごせた可能性も存在します。 何れにせよシャドームーンが我々の取れる如何なる手段も通用しないほど埒外の耐久力を持っていると考える根拠にはなりません」 上田は、Lに何故シャドームーンに対する認識が軽いような印象を受けたのかが理解できた。 上田や水銀燈は直接シャドームーンの脅威に晒されたため、その恐怖に圧倒されて冷静に戦力を分析する余裕など持てなかった。 しかしLにとってはシャドームーンも冷静な考察の対象に過ぎず、殺し合いを打破するための障害でしかない。 だから上田や水銀燈とLの間には温度差があったのだ。 「それに……仮に私の仮説通りシャドームーンが五感と運動能力を駆使して、建物の崩落を切り抜けたとしたら、 その方がより厄介だと思えますね」 何よりLは決してシャドームーンを過小評価などしていない。 あるいは自分や水銀燈よりその脅威を正確に把握している。 上田にはそう思えた。 「もしそうだとすれば、シャドームーンには極めて高度な五感と身体能力、それに何より判断力と行動力を持っていることになる。 それらはどんな能力より脅威的、と言えるでしょう」 ◇ 先ほどとは一転して、今度はシャドービームのダメージが抜けない龍騎とナイトが防戦に追い込まれた。 シャドームーンは左手に持ち替えたサタンサーベルで龍騎のドラグブレードと何合も打ち合う。 銀の世紀王が振るう紅い刀身と赤いライダーが振るう銀の刀身によって幾重にも散る火花。 更に右手のエルボートリガーでナイトへ斬りかかった。 ナイトはダークブレードで迎撃を試みる。再び接合部分へと。 ダークブレードが逆にエルボートリガーを斬る。直前、エルボートリガーが停止。 ダークブレードを空振るナイト。 そのナイトを跳ね上げるような衝撃と痛みが襲う。 シャドームーンが脚を蹴上げて、踵から伸びるレッグトリガーで切り上げていたのだ。 「ヴァン!! ……うぉっ!」 ドラグブレードでサタンサーベルと鍔迫り合いをしながら、ナイトに焦慮の声を掛ける龍騎。 その龍騎の腹にシャドームーンの右拳が刺さる。 不意を打たれ、たたらを踏む龍騎。 「薔薇の尾!」 追撃しようとするシャドームーンの足が、翠星石の叫びと共に止まる。 翠星石から伸びる薔薇の花弁が一繋がりとなって、シャドームーンに巻きついた。 龍騎とナイトがシャドームーンから離れたため、ようやく援護が可能となった。 しかしシャドームーンの指先から発射されたシャドービームに容易く切断される薔薇の尾。 それでも龍騎とナイトが体勢を立て直す時間は稼ぐことはできた。 龍騎もナイトも翠星石も、ここに来て明確に認識していた。 サバイブ二人にも有利を取れる、シャドームーンの強さの由来。 それは単純な性能の高さだけでは説明が付かない。 自身の高性能を活かし切る、判断力や応用力。 即ち類稀な戦闘のセンスに由来する物だと。 かつてシャドームーンが剣聖ビルゲニアと戦った際。 シャドームーンは改造が完了したばかりで、全く戦闘経験が無かった。 しかしシャドームーンは剣の戦いでビルゲニアを殺し、世紀王としての強さを見せ付けた。 またシャドームーンが仮面ライダーブラックと戦った際。 仮面ライダーブラックは同じ世紀王でありながら、訓練と実戦の中で能力を向上させており、 幾多のゴルゴムの怪人を倒した実績を持つ、正に歴戦の強者。 基礎的なスペックはシャドームーンが上回っていたが、それでも仮面ライダーブラックとの差を埋めきれる物ではなかったはずだ。 実際、戦いは仮面ライダーブラックの有利に進んでいた。 しかし創世王がシャドームーンを秋月信彦の姿に戻した瞬間、仮面ライダーブラックに隙が生まれた。 その一瞬の隙を突いてシャドームーンが勝利したのだ。圧倒的な戦闘経験の差を覆してである。 これらの例から推測できるようにシャドームーンには秋月信彦が先天的に持っていた物か、脳改造によって後天的に与えられた物か定かでは無いが、 戦闘に関することならば類稀な才覚を有している。 おそらく下手な小細工や小手先の技術ではシャドームーンを倒しきることはできない。 シャドームーンを倒すには、全霊を尽くす他無いだろう。 今度は如雨露で成長させた植物を伸ばす翠星石。 植物はまたもシャドービームで焼き尽くされる。 植物細胞が燃焼して黒煙を撒き散らす。 その向こうから、既に聞き慣れた電子音声が鳴り響いた。 『STRANGE VENT』 『TRICK VENT』 煙の向こうからナイトが姿を現す。 その後ろからナイトが飛び出して来る。 更に背後の煙から出て来たのはナイト。 ナイトが次々と煙から姿を現す。その人数は三人や四人では無い。 しかしシャドームーンは一度そのトリックを経験していた。 文字通りトリックを司るアドベントカードの効果。 自身の分身を複数体作り出す能力・シャドーイリュージョン。 『COPY VENT』 散開したナイトに囲まれた形となるシャドームーン。 シャドームーンはその場を動かない。動く必要が無い。 何故なら周囲を囲まれたその位置こそシャドームーンにとっては、全体を一度に攻撃できる好位置だからだ。 両手とそしてシャドーチャージャーからシャドービームを電撃状、それも可能な限り多方向へ拡散するように放つ。 当然、威力も拡散される。しかし今はそれで構わない。 拡散するシャドービームが次々と虚像を透過して行く。 その中で一人のナイトが被弾。 威力が拡散しているため、ナイトにさしたるダメージは無い。 しかし被弾したのは間違いない。即ちそれが実体。 今度は本命、直線状に威力を収束させたシャドービームをナイトに放った。 ナイトは横っ飛びに回避。予測をしていたであろう反応の早さ。 即座にサタンサーベルで切りかかる。 そのシャドームーンの背中に衝撃が走った。 完全に不意を衝かれ、体勢の崩れるシャドームーン。 シャドームーンが振り向けば、そこには虚像であるはずのナイトが斬りかかって来ていた。 それはナイトの姿をした龍騎であった。 龍騎が使用したアドベントカードはストレンジベント。 それはランダムで全てのライダーが持つアドベントカードのいずれか一つに変化する効果がある。 そして変化したカードはベルデが所有していたコピーベント。 その効果は他のライダーを姿はおろか能力までも模倣することができる。 速度に優れたナイトの長所を活かし、更にダークブレードでシャドームーンの背後から何合も切り込んで行く龍騎。 シルバーガードを抜くことはできないが、それによって4000APの威力が衝撃としてシャドームーンに叩き込まれる。 シャドームーンは振り向きざまにレッグトリガーを蹴上げる。 ダークブレードとぶつかり鍔迫り合いになるレッグトリガー。 再び背後からダークブレードの衝撃を受けるシャドームーン。 本物のナイトも高速の斬撃でシャドームーンを襲う。 高速斬撃で攻め立てる二人のナイト。 しかもシャドーチャージャーからのビームを警戒してか、二人ともが執拗に側面へ回り込んで行く。 シャドームーンはサタンサーベルとエルボートリガーで応戦するが、 腕を身体の外側に伸ばしながらとなるため、防戦一方になる。 側面に回りこんだナイトが、更に背後へと斬りかかるが、 斬撃はシャドームーンの頭上を通り抜けた。 屈み込んでいたシャドームーンは、その反動で一気に跳躍。 高度40メートルまで達することが可能な瞬発力は、一瞬で二人のナイトを遥か上空から見下ろす高さまで到達した。 シャドーチャージャーの内部から光りが漏れている。 「ビームが来るぞ!!」 上田の叫び声が上がる。 F-5のエリアにあった公園でシャドームーンの襲撃を受けた上田は、それを目撃していた。 ゼール種のミラーモンスターの群れを一挙に殲滅したシャドームーンの戦術。 今のシャドームーンの態勢は、あの時と全く同じだった。 シャドームーンのシャドーチャージャーと両手から同時にシャドービームが放たれた。 電撃状に拡散するそれは、二人のナイトの上空全てを覆い尽くすエネルギーの濁流にして暴流。 二人のナイトみならず周囲の空間一帯をその破壊的なエネルギーが包み込むべく、上空から襲い掛かる。 しかしシャドービームの光は、影によって塗り潰される。 巨大な植物の影。 翠星石が育てた植物が、二人のナイトの上に覆い被さるように伸びていた。 植物にシャドービームが被弾。 膨大なエネルギーが爆発に変換される。 高密度の繊維でできた植物が微塵となって散開。 それでもなお余剰となったエネルギーが、爆風として二人のナイトに頭上から叩き付けられる。 粉塵や散乱する植物の破片に目を、爆発の残響に耳を奪われた二人のナイトは、 着地したシャドームーンがシャドービームで狙っていることに気付いていない。 コピーベントの効果が切れた龍騎に収束されたシャドービームが発射された。 伸びた植物が龍騎の身体を弾き飛ばす。 シャドービームは龍騎を掠め、植物すら貫通して消え去って行った。 翠星石はシャドームーンと龍騎の間に立つ。 時系列順で読む Back ひぐらしのなく頃に Next 因果応報―終わりの始まり―(中編) 投下順で読む Back ひぐらしのなく頃に Next 因果応報―終わりの始まり―(中編) 158 太陽と月 ヴァン 160 因果応報―終わりの始まり―(中編) C.C. 城戸真司 翠星石 上田次郎 シャドームーン
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第六階層・試練の階層 「これは…」 「大和!?まさか現実か!?」 ―落ち着くがいい。あくまでもこの大和はアドラメレクにコピーされたもの。そして、ここにいる住人も全てコピーされた存在である― 柳茜を除く皆が、エストレアの作り出した鏡に映る光景に目を奪われる。 大和が映り、次に飛鳥、出雲と映像は変わって行った。 「まさか飛鳥もあるなんて…」 「い、出雲もですよ!妹もいるのかな…」 ―大きく分けて、4つにこの階層は分かれている。出雲、飛鳥、大和A、大和Bの4つにな。好きな所から向かっても構わん― そういうとエストレアは今まで3度、貴方達と戦ってきたせいか疲れたように目を閉じる。 ―私は少し休ませてもらう― こうして、6層攻略が始まった。 始祖の悪魔マザー・マッドマン撃破 始祖の悪魔であり、この6層の番人であったマザー・マッドマンを倒した貴方達。 一旦拠点に戻ると、そこには異様な光景が待っていた。 「半!!うおおおおおおおおおおおなんで丁なんだよおおおおおおお!」 「ふぉふぉふぉ、まだまだ青いのう」 「28回連続でハズレ…いい加減ロノウィ大老にズルされてるって気づこうな、兄者」 なんと五大悪魔の一体でもあり、始祖の悪魔でもあるはずのロノウィが、マザー・マッドマンの息子達であるファニー・マッドマンとクレイ・マッドマン達と色々なゲームで遊んでいたのだ。 それらは全てロノウィの圧勝(ズル有り)で、賭け事をしていたのか、天瀬麻衣の隠し撮り写真や、鬼ヶ原空を攻略キャラとした恋愛ゲーム等をはじめとした、ファニー・マッドマンの力作やお宝が次々にロノウィに没収されていく。 しかも当のロノウィは興味ないようで、それらアイテムを乱雑に異次元へと、どうでも良さそうに放り投げているのだ。 帰ってきた貴方達に気づき、久しぶりに目を醒ましたエストレアは柳茜へと尋ねた。 ―悪魔、増えてるんだが― その後、エストレアは彼らを視界に入れた瞬間に攻撃という名の抹殺を行うようになってしまったのは、また別の話。 (しかしクレイはうまく立ち回るという名のファニーを犠牲に、そのファニーはドM体質のため、最近エストレアの抹殺が快感に変わっているという変態だったという余談) ≪ツヅク≫
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エピローグ~one year later…7~ 出雲第四層、ハンターギルド出雲支部。 その休憩室は、かなりの緊迫感に包まれていた。 出雲騎士団の者と、ハンターギルドの者で、どこまで活動していいか等の協定を結ぶ大事な会議の日だ。 元々、騎士団の邪魔にはならないような活動を行う、騎士団の命令には従う事を義務付けられてきた出雲支部だったが、1ヶ月前に革命軍の残党による殺人事件が4層で起きてしまい、その時に騎士団のギルドは一切活動をしないという命令を破り犯人を捕まえたせいで、その部分が再び問題視された事件があった。 国としてはそのスタンスは一貫しているが、そうはならないだろうと現場のハンターギルド出雲支部のハンターと、4層担当の騎士団の隊長とで協議がされているのだ。 国としてのスタンスが決まっている以上、協議とは言っても非公認の協定になるため、騎士団側の力が強いのは確定的に明らか。 そのため、風見はイチかバチかの賭けとして、第三回目の今回の交渉役を出雲を知る二名と、大和から移籍してきた『戦乙女』に任せる方針にした。 受付で風見と真田が頑張っている一方、こちらでは別のバトルが勃発していたのである。 「だからァ!!言っておるだろうがァ!!!ギルドは我々騎士団の補助役!我々騎士団の命令を無視して動くならば、そんなもの出雲にはふさわしくないとッ!!」 「まだそんな頭硬い事言ってんの?人がそのせいで死んでんのよ!」 「騎士団だって対応できない部分をしてやろうって言ってんじゃねーか!理解しろよクソヒアデス!!」 「貴様ァ~!!神子だからと調子に乗るなよッ!!!大和の女もだッ!!!」 「二人共、落ち着きなって」 「臥龍隊長も、そうカッカしたらダメですよぅ~!」 ハンターギルド代表であるハンター、柳茜と玖珂ベルルム。 一方騎士団の代表は、出雲騎士団第二部隊-Taurus-の部隊長である臥龍ヒアデスと、第三部隊-Gemini-の部隊長である双星ポルックスが本日の担当者だ。 いつもは風見と真田が、第十部隊-Capricornus-の部隊長であり、騎士団の第四層エリア担当でもある山王ナシラと交渉を行っていたが、ナシラの方が一枚上手ともあって、それを打破するべく取った風見の采配だ。 …まさか向こうも代役としてヒアデスを送り込んでくるとは、夢にも思わなかった風見だったが。 「だから最初から私は反対だったのだッ!!!こんな何処の馬の骨とも分からないような、野良犬風情を引き込むなど、出雲の品格を落とすだけにならんだろう…」 「元はと言えば、全部テメーが革命軍の時に失態を起こしたせいで招いた種じゃねーか!」 「そうなの?」 「茜は知らないっけ。革命派って名乗ってた連中が好き勝手やってた時に、他国の人間も絡んだせいで大和や飛鳥政府から散々言われたみたいよ」 「へー、それで出雲支部が開設されたんだ?」 「飛鳥のメンバーはまだいないけど、飛鳥のハンターもそのうち出てくるかもね。2国での協力の賜物によるギルドらしいから」 「この寄生虫がァ!!飛鳥も大和も、我が出雲に堂々とスパイに入りおって許さんッ!!」 「ダメですよぅ~臥龍隊長!国際問題になっちゃいますよぅ~!」 そんな会議の様子を、つい今しがた入生田宵丞と鎮守由衛を送り出した風見次郎が、扉を少し開けてこっそりと見守っていた。 真田斎もそれに便乗している。 「はぁ…本当に国際問題にならなきゃいいけどな…」 「よりによって当たりが強い臥龍さんですからね…」 「玖珂はもちろんだが、柳も沸点低そうだしなぁ」 「いや、意外と柳先輩は冷静ですよ。言う時は結構キツイ事言いますけど…。どちらかというと…」 こそこそ話しながら、真田は休憩室を再度覗き込む。 するとちょうど、テーブルをバン!と大きく叩く音がした。 「は?誰が寄生虫?誰がスパイだって?黙って聞いてりゃ好き勝手言ってんじゃねーよ!」 「ちょ、ちょっとエレナ…」 「松原博士の孫娘…ちょっぴり大和に精通してて、ちょっぴり機械に詳しいだけの貴様が出しゃばるんじゃあないッ!!貴様が出しゃばってもこの会議は進まないッ!!」 「知ってんの!?そういう所のせいで、アンタが騎士団で一番嫌われてんのよ!」 「き、き、貴様らァ~~!!ッ!!この臥龍ヒアデスをどこまでおちょくれば気がすむのだッ!!さすがの私もそろそろ堪忍袋の緒が切れるッ!!限界だッ!」 「松原さんも臥龍隊長も、抑えてください~!」 苦笑をしつつ、仲裁しているポルックスを見る真田と風見。 先に呟いたのは風見だった。 「いや本当になんでヒアデスが来るんだよ…もっとマシな人選あっただろ…。いやそれを言ったらうちもか…。松原、あんなに沸点低いの?」 「あの中で一番冷静そうに見えて、おそらく一番キレたら手がつけられないのは彼女かなと思います…。柳先輩だけに交渉させた方が、まだよかったんじゃあ…」 「どの道ヒアデスだしなぁ…。今回は捨て日として、次回会合の場を山王とつけておくか…」 「お、お疲れ様です」 こそこそ見守ってた二人だったが、突然ギルドの電話が鳴った。 真田が受話器を取る。 「はい、ハンターギルド出雲支部です。…はい、はい?」 「ん?依頼か?」 「風見さん!3層エリスタワーにて立て籠もりテロ発生です!」 「なにィ!?つっても3層だし、双星の管轄だろ?」 「そ、それが…現場にて鎮守君と入生田君が、人質になっているそうで…」 「…ほんっと鎮守の奴はトラブルしか舞いこまねーな!!」 涙目で風見はタブレットを弄る。 さすが機械都市とも言える天下の出雲。3層のライブ映像が、テレビを通してネットで公開されているようだ。 そして、既に休憩室の面々は準備をしていた。 「よいか双星ッ!!まず貴様は空から偵察ッ!その間に私の主力部隊がエリスタワーを包囲するッ!」 「私の管轄なんですけど~!了解です!」 「こっちも行くよ。風見さん、緊急依頼って事でいいですよね?」 「ああ。ポルックス隊長、アルヘナ隊長からは許可を取ったので、ギルドの遊撃隊としての同行を認めてもらいますよ」 「あ、わかり…」 「ギルドが出しゃばるんじゃあないッ!!」 ポルックスの返事に被せるように叫ぶヒアデスに、またかよ…と頭を抱えるのは風見。 だが彼はすぐに言い返す。 「いいのか臥龍隊長殿。柳達、もう出ていっちまったけど」 「なぁにィ~!!?いつの間にッ!素早いッ!」 「私たちも急ぎましょう~!」 先にギルドから出て行った茜達の後を追うべく、ポルックスとヒアデスも急ぎギルドから立ち去った。 残された風見と真田も、パソコンやタブレットをフルに使いつつ、茜達と通信を繋ぐ。 「情報出ました!テロ組織『朱紅き檻』です!」 「!!10年くらい前に、大和でテロ活動を行ってた奴らか!真田は至急、大和ギルドから当時の情報を引っ張ってくれ!」 「了解です!」 「柳達も聞こえてたな?後で「例のブツ」は届けてやるから、それまでは無茶するなよ。相手はAクラスの賞金首達だからな!革命派と同レベルからそれ以上と思っておけ!」 『了解!』 緊急シグナルを出しつつ、3層へと飛行ブーツにより飛んでいく遠目で見えるポルックスを、同じく3層へ向かうリニアモーターに乗り込んで追う茜達は羨ましそうに見つつ、風見に返事を返した。 こうして、エリスタワー解放作戦が開始された…! ☆ エリスタワー。 出雲第三層に聳え立つ30階建てのビルで、実質ここが双星部隊の拠点となっている。 「ポルックス!それに皆さんも」 「ディオスさん!今の状況は?」 ポルックスに続き、茜、エレナ、ベルルムと続く。 エレナは到着するなり、腕から小型の時計サイズの空撮用の小型ロボットを飛ばす。 普段は芸能関係の彼らのマネージャーを兼務している、副長である三神ディオスが双星アルヘナと共に空撮写真を見せる。 「エリスタワー全域、テロリストの手によって掌握されています。1階、12階だけでなく、25階、屋上に敵部隊が展開していますね。この写真と照らし合わせて見る限りは」 「人質も、その辺りかな。皆も捕まってるから、全フロア合計100人以上になると思う」 「マジかよ…中々骨が折れそうだな」 ディオスとアルヘナの後に、ベルルムが緊迫した様子で呟く。 そして…と続け。 「私達騎士団に対して、脅迫声明が出されているよ。身代金100億を明け方までに用意できないと、人質全員殺すって」 「また、進攻が確認され次第、同じように人質を殺す…との事です」 「そんな身代金は用意できないし、テロに屈するわけにもいかない」 でも、とポルックスは言葉を続け。 「人質も全員無事に助け出したい。屋上はディアスさんと部隊の人達、25階は私とアルヘナ二人で突入します。1階も私達の部隊が担当するとして、12階はお願いしてもいいですか?」 「急襲を掛けるなら、大勢だと動き難いんじゃないですか?それに第三部隊の人達は、主に空戦が得意…そしたら、1階も私達が受け持ちますよ」 茜の言葉に、ポルックスはアルヘナやディオスと顔を見合わせ、困った表情をする。 「情報によれば、敵の幹部のうち3人が1階にいるそうです。有名な武装テロ組織のようですし、かなり手強いですよ?」 「…だってさ。どう?真田くん。12階は入生田君達が捕まってるし、エレナ一人でも何とかなるんじゃない?」 『先程騎士団からもらった情報と照らし合わせると…そうですね。幸い名のある幹部は12階と屋上はいないみたいで。いや、屋上はその分、機械兵器が多いですね』 エレナが飛ばした空撮用のロボットが、ギルドへと情報を送りながら調査を行った。 熱源を調べた所、電熱が屋上、12階は特に強いらしい。 ちなみにエレナの装着しているバイザーの音声認識により、飛行をやめ二足歩行で地上歩行も可能な、松原クリストフ制作の偵察用の小型ロボットだ。 『ですが、1階はかなり厳しそうですよ。幹部5人のうち3人の姿が目撃されています』 「残り二人は25階か。私も空からの急襲は可能ですけど」 「…わかりました。では作戦変更し、25階は私とアルヘナが。12階は松原さんに。1階は玖珂さんと柳さんにお願いします」 少し悩んだポルックスだったが、エレナを見てそう決断をする。 12階は機械兵器が多い分、熱源感知で人質以外の熱源は少なめのようだったからだ。 となると、機械兵器を一瞬で無力化できる機械装置を持っているエレナに最適のエリアと言えなくもない。 また、茜やベルルムの戦闘力は、おそらく地上戦で考えれば彼女らも含めた部隊のメンバーの誰よりも適していると判断したからだ。 「現在12時15分前。12時ジャストに作戦を開始しますので、全員指定位置についてください!」 「了解!」 こうして、全員それぞれの作戦開始ポイントへと移動した――。 ☆ 12時ジャスト。 『作戦開始!』の合図と共に、屋上にディアス達第三部隊の数名が降下した。 「こちらアヒルチーム!どうやら愚かな騎士団は、人質を殺したいらしい。…?おい!イルカチーム、サソリチーム、モリモトチーム!応答せよ!」 「残念でしたね、既に貴方達の通信は妨害させていただきました!」 「くっ!ならばアラートを鳴らせ!そして人質も見せしめに殺すがいい!」 「ダメです隊長!アラートは鳴らしましたが、こいつら早い…!」 人質を保護し、既にテロ組織のメンバーは騎士団のディアスのチームに取り囲まれていた。 個人としてはもっと速い者も他部隊にはいるが、第三部隊の部隊としての行動力は一番高く、統率されている。 「あまり騎士団を舐めないでもらいたいですね」 「フン…拠点を我らに呆気なくとられた無能騎士団風情が…調子に乗るのも今のうちだ!」 ガションガション、という音を立てながら、大人一人分のサイズはある二足歩行の機械兵器が現れる。 エレナが感知した電熱の正体だ。 「でぃ、ディアス隊長…!」 「構いません。君達はテロリストのけん制や人質を守る事を優先してください」 「バカが!アリッサ博士が作った、フジヤマ三号は装甲・破壊力共に高性能の――」 リーダー格のテロリストが説明中に、そのフジヤマ三号という機械兵器は一体破壊された。 「なあっ!?」 「残念でしたね、その聞いた事も無い博士なんかより、もっと有名な博士が作った強いロボットを相手に、訓練を積んでいるんですよ我々は」 ロボットの頭部を、強化ブーツで踏みつぶすディオス。 そのまま、横に跳び次のフジヤマ三号を撃破する。 「…容赦なく、一片の慈悲も無く貴方達を殲滅させてもらいます」 『電光石火』。 三神ディオスは、この一件以来そう呼ばれるようになった。 ☆ 「ジャミング完了っ」 『ピーガガガ…』 「なあっ!?フジヤマ三号が!?」 「ふっふーん。松原クリストフの孫娘がいたのが、あんた達の運のツキねっと!」 作戦が成功し上機嫌なエレナ。 テロリストの攻撃を回避しつつ、人質を守るような立ち回りで次々にテロリストを、スタンガンのようなもので倒していく。 「くそぉーーー!」 「これで終わりっ!」 三人いた最後の一人を倒すと、得意気な顔で辺りを見回す。 「あれ?何か忘れてるような…ま、いっか」 人質に怪我がないことを確認しつつ、ギルド、騎士団へと12階の制圧完了を伝えるのだった。 ☆ 25階。 「やられたー!」 残念ながら朱紅き檻の幹部の一人、ジャッカルという男達は瞬殺だった。 もちろん殺してはいないが、双星姉妹の突入から撃破まで僅か5秒。 ちなみにジャッカルは幹部ではあるが、得意とする内容は輸送。 密輸も含め彼の成功率は9割と、かなりの高さではある。 しかし今回に限っては、そんなスキルがあっても何の役にも立ちはしない。 もっとも、今回の機械兵器等を極秘裏に持ち込んだのは彼の功績だが、それは置いておこう。 「大丈夫ですか?もう安心ですよっ!」 「怪我のある方はいますか?」 二人が人質の所へと歩み寄った時、影から一人の男と人質の計二名がぬっと現れた。 根暗そうな男、手配書ではレイスと言う男と、人質は鎮守由衛である。 「そこまでだ。一歩でも動けば、この少年の首がとぶ」 「うわー助けてー殺されるー!」 「貴方は…!え!?なんでここに!?」 12階にいるはずの鎮守。 なぜ彼がここにいるのか、それは彼と入生田宵丞が12階で拘束を振り切って上に逃げて来たからに他ならない。 ちなみに宵丞は他の人質達と一緒に、この光景を何とかしようと見守っている。 そうとは知らず、レイスは髪を掻き上げて得意気だ。 「わかる、わかるよ。僕にびびっているんだろ?ククク…そうさ。僕はセブンスナイトの中でも最強。迂闊に飛び込めないんだろう?わかる、わかるよ」 「セブンスナイト?いい歳こいて厨二病かよ、さすがの僕でもそれはないわあ」 「…君、人質の癖にうるさいね」 鎌を取り出し、鎮守の首筋にあてる。 鎮守は「ひえっ」と悲鳴をあげると、レイスは満足そうににんまりした。 ポルックスは、アルヘナに視線だけを向ける。 「アルちゃん、他の人質の人達を連れて、安全な所に避難してて」 「でも…」 「大丈夫だよ」 「…わかった」 アルヘナが人質達と共に、避難しているのを見つつレイスは髪を掻き上げた。 「どうやら僕の事は知っているみたいだね?有名だからそりゃあそうか。一応名乗っておこう、僕はレイス。朱紅き檻の幹部セブンスナイトの一人」 「いえ、知っているので結構です!」 「ちなみに、出雲の者にわかりやすく言えば…臥龍ヒアデスクラスの実力者さ。あの日も、今日と同じような曇天の日だった…」 「話を聞いてください!」 「ちなみに大和の者にわかりやすく言えば?」 「そうだね、今なら天城宗次郎クラスと言えばわかるかな?」 「鎮守さんも話振らないでください!」 ツッコミ役になっている事に気付いたポルックスは、首を横に振ってキリッとした表情に戻す。 「他の階の応援にも行きたいので、今すぐ選択してください。おとなしく捕まるか、抵抗して捕まるか、です!」 「やれやれ…まだ立場がわかっていないようだね。学の無い奴はこれだからやだね…」 「でも厨二発言してる君も、十分バカっぽく見えるぜ?」 「いちいちうるさいな!!人質なら沢山いるんだし、君を殺してもいいんだぞ!?」 話進まないなー、と苦笑を浮かべつつ、じりじりと相手に近づいていくポルックス。 こちらに注意が向いていない今がチャンス! 「その前に、貴方を逮捕します!」 ブーツが火を噴き加速し、一気にレイスとの間合いを縮めたポルックス。 レイスもまさかこんなに速いとは思っていなかったのか、驚愕の表情を向けた。 「これで終わりです!」 しかし、ポルックスの渾身の蹴撃はレイスをすり抜けてしまう。 レイスもこれには、口もとがニヤリと笑んだ。 「バカにも分かるように説明してあげよう。これは何を隠そう、特殊なアイテムの力なんだよ!!そう、僕の特殊技は体をすり抜ける効果を付与するアンデット化だ!」 「ならこれならどうですっ!」 ポルックスは大きく後方へと跳躍し、大気中の風を集め、蹴撃からカマイタチを生み出し飛ばす。 だがその一撃も、例外なくレイスをすり抜け後方の壁へとぶつかった。 「そ、そんな…」 「フフ…ようやく僕の強さに気が付いたか。いかに隊長格とはいえ、セブンスナイトの幹部の一人である僕にとっては赤子の手をひねるも同然なのだよ…」 「でもさあ、アンデットって火と光に弱いよね。自分から弱点を晒すとは、やっぱりバカなんじゃないかなあ?」 「弱点?いいや違う!個性だよこれは!!!そんなことも分からないとは、さすが学が低い…!!」 焦りながら言うレイス。 その態度が明らかに弱点だと教えているようなものだろう。 人質になりながらも、まるで勝利を確信したように鎮守は叫ぶ。 「さあポルックスちゃん!今がチャンスだぜ!」 「わ、私、風属性以外は無属性ばかりなんですけど…」 「…は?」 「ククク…これは残念だったね。勿論それも想定済みだったよ」 「嘘つけよ!」 火と風属性を持っておらず、更におろおろし始めたポルックスを見て、自身もおろおろし始める鎮守。 逆に勝利を確信したレイスは、笑いを止めて鎌を振り上げた。 「さて…そろそろ漫才も終わりだ。君はいらないや。死んでくれるかな」 「…えっ」 そして、そのまま鎮守の首が鎌で貫かれる。 「鎮守さん!」 「心配ないよポルックスちゃん。ハードラックを発動していたからね!!!」 説明口調で鎮守は、ポケットからサイコロを取り出した。 地面へと落ちたサイコロは、コロコロ転がりダイスの目を出す。 「ま、ダイス1~5ならちょーっと不幸な目にあうだけで、こんな致命傷だってこの通…り?」 「鎮守さん!!血が止まってないよう!」 「ハハハハハ!だから言っただろう?僕らはハンター・騎士団の主要メンバーは全員把握済みだと!当然これも想定していた!」 「あががが」 鎮守が地面を見ると、そこにはなんとサイコロに目が全くない、真っ白なサイコロがそこにあった。 「僕の特技、ホワイトペーパー。鎌に触れた者は、全ての技や魔術の効果が『白紙』となる。フフ、特技というより、異能と言った方がよかったかな?」 「あががががが」 「ハハハハ!そのまま死ね!死ね!!死んでしまえ!!」 その場に倒れた鎮守を見下しながら、笑い声をあげるレイス。 やがて鎮守の体は動かなくなる。 「さて、双星隊長。次は君だ。大人しく人質になるなら、彼のように殺しはしないが…」 「え?僕のようになんだって?」 「え?」 ポルックスとレイスが同時に足下を見た。 そこには鎮守の体は無く、あるのは衣服だけだった。 「はい動かないでね」 サイドワインダーを発現しながら、レイスの背後には入生田宵丞の姿があった。 その後ろに、パンツ一丁の鎮守の姿も。 「な、なんでこいつ生きて…!確かに鎌が喉を貫いたはず!致命傷だったはず!なのになぜ!?って顔をしてるから説明してあげるよ。 僕がハードラックを発動したタイミングで、イリューダがハードラックエコーで鎌の…なんだっけ、ブラックペッパーだっけ?その効果を肩代わりしてくれたお蔭で、僕はハードラックを使う事ができたんだぜ」 「いえーい」 得意気な様子の鎮守の隣で、サイドワインダーの魔力を出しつつピースサインを見せる宵丞。 レイスは驚きのあまり、固まっていたものの、すぐに冷静さを取り戻す。 「だが!僕の体はアンデット!その魔術は出雲の魔素が低い効果も相まって弱い上、どう見ても光や火属性ではないだろう!」 「え?本当に火でも光でもないって思ってるの?どーするイリューダ、こいつイリューダのサイドワインダーがあたかも闇属性だと思ってるみたいだぜ?」 「え?俺のサイドワインダーって闇属性だったの?」 白々しく疑問を投げ合う二人を見つつ、レイスは考えた。 実際に光か火属性ならば、自慢ではないが彼の肉体はとてつもなくその属性に対してだけは、この状態では弱いのだ。 万が一の可能性があるならば、ここは手を出さない方が――。 「――いや、ここは攻めだ。その蛇の矢、撃ってみればいい!」 レイスは振り返り、宵丞目掛けて鎌を投げ飛ばす。 鎌は宵丞の額に命中した。 宵丞は自分の額を見上げようとしつつ、呟いた。 「やっちゃったね」 「ああ、賭けは負けちまったぜ。その通り、イリューダのサイドワインダーは闇属性だよ。だから…」 「ふはあっ!?」 ダメージを受けたのはレイスの方だった。 彼の額がパクリと開き、大量の血が流れだす。 下手をしたら脳にまで達しているのかもしれない。 死ぬ。 そう考えたら、レイスは頭がおかしくなりそうだった。 「なぜだ!?なぜ!?いつ攻撃を受けた!?光!?火!?いや、今のは違う…!」 「久しぶりに使わせてもらったよ、初見殺し(キラースナイパー)を!!」 「あれ?初見殺しってシズモの受けたダメージを返す技じゃなかった?」 「そうだっけ?じゃあ『初見殺し改』で」 「ど、どっちでもいいですけど!え?何が起こったんですか!?」 宵丞と鎮守の会話へと、ポルックスが割って入るように声をかける。 既にレイスは気絶し、倒れた。 「簡単だよポルックスちゃん。この技は1度だけ、受けた攻撃を相手に返すことができるんだ。ただ、一度返したらその後は耐性ができて、一生通じなくなるんだけどね」 「シズモ大変だ、花束がめちゃくちゃになってる」 「マジで~?しょうがない、仲裁は花無しで行くしかないね。ついでにこのレイスってのは、ポルックスちゃんに任せるね。出雲の医療技術なら、脳に達してなければ後遺症とかも出ないでしょ」 宵丞が残念そうに、このゴタゴタで誰かに踏まれた花束を拾い上げると、鎮守は説明中でもそちらへと気を移した。 「じゃ、僕ら依頼あるし行くねー」 「お疲れ様でした」 「えっ、ちょ…!」 マイペースに言う二人を見送ると、とりあえずポルックスは足下のレイスを見下ろし、微妙そうな顔をする。 作戦完了の合図と共に、彼をこのエリアに人質となっていた騎士と協力しつつ、このエリアから撤退を始めた――。 ◆入生田宵丞 異次元帰還後、茜ギルド所属としてハンター活動を続ける。 国の有事や権力が絡む依頼は請けないものの、それ以外の裏をメインとした依頼を受ける事が多いため、ギルド長の新城抉曰く「彼は茜に無くてはならないハンターの一人」らしい。 紅にあるリサイクルショップ「墨本堂」に間借りし、依頼が無い時は店番を手伝っているとか。 高等部の天文部の面々や、義貴つつじ達等、高等部時代の知人友人や同級生とも連絡を取り合っている。 実は城ヶ崎憲明とも交流があり、一度だけ彼の旅にも同行した事があるらしいが、それは本にはなっていない。 また高等部の教師、曾木正美とはつかず離れずの関係と本人が思っているだけで、曾木に関しては「年々ステキになってくるわ」と狙われている事をまだ彼は知らない。 ◆鎮守由衛 異次元帰還後、暫くした後ふらっと消息を消す。 (宵丞が連絡をとっていたため、生存確認はされていたが)誰とも連絡をとらず、出雲にふらっと流れ着き、生活に困っていたため出雲支部に所属を移しハンター活動を再開。 生粋のトラブルメーカーで、出雲支部に鎮守と関係した厄介な依頼が無かった事はないくらい、不幸を舞い込む。 一方で無償で困った人には手を貸しているが、そのせいで請けている依頼の解決が遅いため、それを知った上で出雲支部長の風見の頭を悩ませている。 ◆双星ポルックス 異次元帰還後、アイドル活動は休止し騎士団の隊長としての活動を重視するようになった。 真面目で隊長としての器は低く、また一方で臥龍ヒアデスとなぜか組まされる事が多くなり、『ヒアデスのお守り役』と最近ではネット上で言われている。 今回のエリスタワーの一件で、3層管理の騎士は批難を受けていたものの、その後は彼女と妹であるアルヘナが隊長であるうちは3層で大きな犯罪も起こらず、『難攻不落のエリスタワー』と呼ばれるようになるのはまだ先の話。
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エピローグ~one year later…4~ 大和から遥か東方、東晋。 大陸の広さこそ大和と同程度だが、東にある国の中で一番の力を持つ地と言えるだろう。 「確か、幾つもの国が合わさってできた国、だったか」 白神凪は、確認するように隣にいる眼鏡の大男に聞いた。 彼はAクラスハンターという肩書のみならず、神風学園大学部教授のため、そういった歴史関係も詳しい(主にそういった専攻だからでもあるが)。 「そうですね~。この東晋は古くから戦乱が続いており、その中で『晋』という国が数十年前に治めたため、国名も東晋に統一したようです~」 「その割に、余り統一感は無い気がしますね」 「ん~板垣君、よく気が付きましたね~」 板垣勝猛の言葉に、城ヶ崎憲明は頷く。 東晋の地図を取り出し、説明を始めた。 「確かに、晋は統一しました~。ですが、それをよく思わない勢力も多々いまして~。 これでも近年はマシになった方で、そりゃあもう統一当時は血で血を洗うような戦いが幾度も繰り返されたようですよ~」 「よくみたら、この地図…3方面に仕切られてますね」 「ええ、統治している国こそ地図でいう南西の『晋』ですが、北側の『圏』、南東の『涛』は有力な豪族として、かなり力を持っているようですよ~」 「…そうか、だから今はこの圏って場所にいるから、その圏って国の主張が強い場所になってるってことか」 「冴えてますね~白神君。その通りです~。ただ今は国ではなく、いち地方名となっているようですがね~」 彼ら3人は、涛の地から東晋へと入国。 それから北側経由で、晋へと進むルートを歩いていく。 涛の和っぽさとは違い、エスニックな様式の家や服装、果てには料理まで違う。 その不安定なバランスこそが、東晋の特徴であり魅力でもあるのだ。 ☆ 彼らが圏の地の北西部、山間を通っている時だった。 「ん?なんだ?」 「おやぁ~?」 「若い女性…みたいですね」 走って逃げているような一人の女性が、3人に気が付くと一目散にそちらへと方角を変え向かってくる。 「旅のお方…!お、お助けを!」 「落ち着いてください、一体何があったっていうんです?」 「そ、それが…」 「あれは…」 女性が説明をしようとした時。 凪が前方から来る3人の男達に気がついた。 なめし革で作った兜と鎧に身を纏った、こちらと同じ数の3人の男。 手には剣を持っており、兵士を彷彿とさせる容貌だ。 「そこのお前達。旅の者だな? その女は大罪人だ。こちらに引き渡してもらおう」 「い、嫌!」 女性の怯えように、勝猛と凪は顔を見合わせる。 そして男達に向き直った。 「ちょっと待ってください。いきなりそう言われても、そうですかと引き渡すことはできませんね」 「せめて理由を説明してもらえないすかね…?」 「そんな暇は無い。いいから早くこちらに引き渡すのだ!」 「いや、だから理由を…」 「二人共、ここはおとなしく従っておきましょう」 「え…?」 嫌がる女を、強引に兵士達へと渡す城ヶ崎。 勝猛と凪は腑に落ちない表情ではあったが、ここは異国の地。 旅人として来ているだけで、ハンター活動ができるはずもなく、仕方なく彼らは兵士の言うことに従う事にした。 「協力、感謝する」 「いやっ!!!いやぁー!!やめてぇー!!」 「ほら歩け!」 女の首に殺しかねないくらい、きつく締めた縄をかけると引っ張って連れて行く。 ―カシャ。 3人は後味が悪そうな表情をすると、まず聞いたのは凪だった。 「別に、理由くらいは聞いてもよかったんじゃないすか?」 「俺も同感です。若い女性の方が、ああして乱暴にされているのを見るのはちょっと、いい気分ではないですね」 「二人は助手として同行してもらっていますが、白神君は見聞を広めるため、板垣君は行方不明の父親の手がかりを探して同行したのでしょう?でしたら、あまり揉め事は起こさない方がいいでしょうね~。それに」 そのあとの言葉に、二人は驚愕の表情を見せた。 終わったはずの事件。 城ヶ崎憲明による著、『滅びの星ハミルトン(上中下)』の中に出てくるアドラメレク。 今となっては、御伽噺となったアドラメレクではあったが、こうして城ヶ崎により空想の存在として後世に語り継がれていくことになった。 そのアドラメレクに匹敵する悪魔の爵位を持つ存在。 一部研究家には、『三公』と呼ばれている、強大な力を持つ悪魔(アドラメレクは消滅したため、正確には二公だが)だった。 ☆ 公爵の爵位を持つ悪魔の一体、『オロチ』。 それは『魔の因子』と呼ばれる文様を与え、自分の眷属とすることで周りから命を少しずつ奪っていく。 眷属にされた本人に自覚はなく、人間が命を吸い尽くされるのは、それこそ毎日同じ家で生活を送ったとしても10年はかかると言われている。 自身に影響はないものの、魔の因子が発現した者が死ねばその肉体は魔の眷属として姿を変えるようだ。 「…まさかまた悪魔関係に巻き込まれるとはな」 「あはは~運命でしょうかねぇ~」 「自分にはそこらへん、よくわからないんですが…悪魔は消えたんじゃなかったんです?」 「正確には、大和・出雲・飛鳥を掌握していた悪魔、アドラメレクは消えたというのが正しいですね~」 「確か三公、だったか。一体がアドラメレクで、ここの東晋の国はオロチ、と」 三人は、女が連れて行かれた村へとやってきており、情報を集めていた。 意外な程、あっさりとオロチの名は出てくることになる。 それは、この遠雛(えんすう)村と隣村の呂善(ろぜん)村、それから大分二つの村から離れた所にある智凱(ともがい)村の3つの村がそのオロチ信仰に深く関係した村だからだ。 「遠呂智でオロチね…この様子じゃ、三つの村の頭文字もそれ由来か?」 「しかし、古くからの言い伝えで悪魔のオロチの名は簡単に出るものの、それぐらいですか」 「ふーむ。もしかしたら、そのオロチは直接は関わっていないのかもしれませんね~」 城ヶ崎の言葉に、二人は首を傾げる。 言いたい事は何となくはわかるが、現に魔の因子という物が出ている以上、アドラメレクのようになんらかの企みをもくろんでいるのではないのかと。 「どちらかと言えば、呪術に近い感じでしょうか。上条家が引き起こしたという例のアレですね~。元々、呪いは悪魔自身がもたらしていたモノですが、上条家が使っていた呪術という力は、悪魔の呪いをモチーフにしたというだけであって、元々の由来は東方から伝わったという話をどこかで聞いた事があります~」 「お前さん達、何かよからぬことを企んでいるのかい?」 その時、声をかけてきたのは60歳くらいの初老の男性だった。 城ヶ崎がひょえーと驚いた声をあげていたが、凪や勝猛が視認できていたため、彼が気づいていないはずがない。 案の定、彼は大げさに驚いた素振りをしつつポケットに忍ばせたボイスレコーダーをONにしていた。 「いや…ただの旅だし、好奇心ってだけでな。俺らの国にも呪術というのがあって、魔の因子…だったか?それが似てるって話をしてたんだよ」 「そうかい。あんまり深入りはしない方がええ」 「忠告、感謝しますよ」 凪は大和とは違う言語を、一つ一つ確認するように答える。 聞き取りは城ヶ崎が、最悪わからない部分は訳してくれるし、簡単な受け答えは可能だが『呪術』などと言う特異な単語の訳し方が未だに慣れない。 その辺りは、どちらかと言えば勝猛の方が得意だ。 もっと勉強するか…と立ち去ろうとした老人を見送ろうとすると、「お爺さん」と呼び止める声が後方からした。 城ヶ崎だ。 「一つ、よろしいでしょうか~」 「なんじゃ?」 「こちらの方、見ませんでしたか~?」 先程の兵士のような男達に、首を引きずられる女の画像を。 携帯のカメラ機能で、連れて行かれる時に撮影したようだ。 「いつの間に…」 「ああ、マオの事かい。彼女なら、先程戻り今は――」 「そちらじゃあ、ありません。私はこの男達の行方を聞いているのです~」 「「!?」」 一瞬にして張り詰める空気。 周りの通行人も、鎖鎌や刀を構えた。 「そういえば、あれだけ派手に女性を引きずって行った割には…」 「全然話題にもなってねえな」 「…やれやれ…そのまま気づかずにおればいいものを…。勘のいいガキは嫌いじゃよ」 老人のその言葉の直後、一斉に襲い掛かってくる村人達。 「おそらく、彼らは操られているだけでしょう~!板垣君、余り傷つけないようにお願いします~」 「キヨオキ!」 勝猛は人形を出すと、人形と共に地面を叩きつける。 すると辺りに超振動が起こり、村人の姿勢を不安定にし、更には転ばせた。 土御門流の武術の型である「波」。 文字通り、衝撃波や振動が特徴の型だ 「なんじゃと…!?貴様ら…何者じゃ…!?かくなる上は…来い、マオ!」 『シャギャー!!』 老人が指笛を吹くと、上空から巨大な漆黒の翼を持った化け物が降ってくる。 「先ほどの女性の成れの果て、と言ったところでしょうか~」 「教授…そんな悠長な事を言ってていいんすか?あの爺さん、逃げていくぜ」 「おやぁ~!?白神君、彼はぜひ捕まえてください~!」 化け物を呼んだ直後に、まるでチーターのような速さで逃げる老人。 老人らしからぬ脚力に呆気に取られて見ていたが、すぐに化け物の剛腕がとんできたため、回避をしつつそれぞれの行動を取った。 他の村人の相手は勝猛に任せて。 「ったく…人使いが荒いな」 凪は戦闘態勢を一旦解き、息を整えると辺りの風を自身へと集める。 次の瞬間、彼の体は白を基調としたライダースーツのような姿へと変化した。 「風神化…まさか現実に戻ってからも見られるとは~」 「悪いが話は後にしてもらうぜ。効果時間は1分も持たないんすよ」 そして連続使用はできないという欠点。 一日に一回、といった所だろうか、 もちろんあの異次元の頃よりも劣化した今では、前程の能力は出せないが、それでも圧倒的な速さを以て一瞬で老人に追いつき、前方を立ち塞ぐことは容易だった。 「な、なんじゃ…!?このワシが足で敵わないじゃと!?ぷぎゃあ!」 老人を風を纏った玉、風雪の玉で軽く一撃。 すると老人は吹き飛び、気を失った。 「おお~、やはり操られていましたか~」 「これで一安心…って所ですね」 勝猛と戦闘を行っていた村人も、バタバタと連鎖するように意識を失う。 そして、化け物は再び先程男達に連れ去られた女の姿へと変化し、女も意識を失って倒れた。 「生きてるのか…?」 「ふむぅ、どうやらそのようですね~。死んで化け物になったというよりは、魔の因子を暴走させられて化け物と化していた、といった所でしょうか~」 「すいません、理解できてないんですが…」 「安心してくれ板垣先輩。俺もだ」 城ヶ崎は一人で納得しつつ、彼女をおんぶすると宿の方へと向かって歩き出す。 「連れて行くんです?」 「女性をこんな所で、一人にするわけにはいかないでしょう~?さあお二人も手伝ってください~」 「いや他にも女はいるんだが…」 明らかに好奇心から連れていくつもりだ。 なぜなら、勝猛が戦っていた村人の女性には脇目すら振らないからだ。 二人は顔を見合わせ、やれやれというようにため息をつくと城ヶ崎へと付いていった――。 ☆ それから色々あって、この三村の問題を解決した三人。 帰りの船の中には、今回の件で助けたマオという女性が同行していた。 「しかし、あんたも来るのか」 「故郷はあの一件で、もうありませんから。城ヶ崎さんの所でお世話になろうと思います」 「そうですか。それはよかったですねぇ」 行きとは違い、一人増えた船内。 無事、とは言えないものの、オロチの復活も阻止し謎の教団の企みの一つを潰した今となっては、微々たる事とはいえよかったと思う。 何より、被害者だった彼女が生きていたのだから。 「そういえば…板垣さん、私が小さいころ、どこかでお会いしていませんか…?」 「マオさんと…ですか?失礼ですが、一体お幾つで?」 18、というマオに、若いな…という反応を見せる一同。 そして間違いなく、勝猛は彼女とは会っていない。 東晋から彼女は出た事が無いと言うし、勝猛もまた、今回が初の東晋だったからだ。 「人違いかもしれませんね。雰囲気というか、今はもっと老けていてもおかしくないですし…」 「…まさか、ね」 勝猛の旅の理由である、父の足跡を探す事。 他人の空似かもしれないが、もしかすると異国に足を運んでいる可能性もあると、彼はここで改めて考えた。 「さて!一先ず話は後にしましょう~!久方ぶりの大和が見えてきましたよ~!」 無事帰国した3人と女性一人。 まさか、これが縁となり城ヶ崎の旅にこれからも同行するとは、今の二人には想像もつかない事だろう。 そして小説としてこの冒険が、多大な脚色を加えつつ発表されるとは、夢にも思わなかっただろう。 一先ず、彼らの『二つ目』の冒険はこれでおしまいとなる。 次の冒険も、そう遠くない日に――。 ◆城ヶ崎憲明 異次元帰還後、定期的に異国へと旅に出る事になる。 そこでの経験を活かし、冒険を小説として書き起こし発表。 代表的な作品は、『滅びの星ハミルトン(上中下)』『東晋の黒き悪魔(上下)』『烈火の砂塵原』『空の檻歌』。 彼の小説では、彼をモチーフにした『ジョウ』というキャラが登場するが、一作品を除いて『ラギ』や『タケ』の人気キャラのどちらかとの冒険しか小説に書かなくなったのは、単純にジョウ一人の冒険作品が爆死レベルの売れなさのためだ。 ちなみにその小説のタイトルは『エジンバラの巨獣』。 ジョウが52歳の頃の冒険を描いた最後の作品『幻の古都スノーバレー(上中下)』まで、20余冊もの小説が書かれたという。 余談だが、勝手にモチーフとしたキャラを出すため、城ヶ崎を訴える人もいたとか。 ◆板垣勝猛 異次元帰還後、ハンターとして茜ギルド所属としてそのまま活躍を続ける。 一方で、同じハンターで任務中に行方不明になった父親捜し、今回の城ヶ崎の冒険に付き合った事が切っ掛けで、今後も深く関わっていくとは夢にも思わなかっただろう。 彼をモチーフにしたキャラクター『タケ』が登場しているのは8作品あるが、中でも『東晋の黒き悪魔(上下)』『遠き地のフラメンコ』『灼眼の紅魔』は彼の父親関係の話も少しされており、彼の知り合いでもある、とある宮廷魔術師からの他愛もない依頼が始まりとなり、壮大なスケールで描かれた『異界の月の葬送曲(上中下)』で再会を果たす頃になるが、現実ではどうなったかは誰もわからない。 また、最終巻である『幻の古都スノーバレー(上中下)』では、東晋の黒き悪魔以来の競演となったもう一方の人気キャラクター、ラギとコンビを組む話となっているため人気も高い。 ◆白神凪 異次元帰還後、紅を中心にハンターとして活動を行う。 一方で異国を主とした冒険を城ヶ崎と行うようになり、彼の書く小説の人気キャラクター『ラギ』のモチーフとなるくらい、一番城ヶ崎と同行した数は多い。 14作品を『ジョウ』と共にし、『タケ』と共に相棒論争が行われているとかいないとか。 彼の出る作品は、一作目の『滅びの星ハミルトン(上中下)』とのキャラとの再会も多く、中でも彼のライバルでもある飛鳥のハンター『トール』と絡む『水底のマージナル』。 出雲支部のハンターで戦乙女と呼ばれている『スカーレッド』との共闘を描く『烈火の砂塵原』。 『タケ』との久しぶりの冒険を描いた『幻の古都スノーバレー(上中下)』が特に人気を集めている。 また、彼の出る作品は料理が特に描写される事が多く、食い倒れの旅と一部では言われている。
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始祖の悪魔・ブランディッシュ撃破 ―始祖の悪魔、ブランディッシュをこうも早く倒すとは…感心したぞ― 「それはともかく、早く助けた子を解放してやってよ!」 拠点に戻った四人は、エストレアに手に入れた4つの宝玉を渡すと、それを解放する。 光に包まれ、そこには蒼氷カノン、牧本シュウ、紫堂陽人、尸黄泉の4人が出現していた。 「…一体、何事ですか…?」 「美澄少尉、ご無事ですか!」 「くらえっ!ヒートウェーええええ!?」 「どうも~、今日は時事ネタっちゅーことで、監獄。つまりプリズンとワイが食べてるプリンを合わせた漫才でお送りします~。ってさすがにプリンとプリズンは無理があるやろ!?」 4人はそれぞれ驚いて辺りを見渡した。 ―まだ始めの1体目の悪魔を倒しただけ。これからも、新たな者達と共に精進するがいい― 困惑する4人にもエストレアは声を届けると、そのまま眠りについた。 ひとまず彼らにこれまでの状況を説明し、新たな協力者を得たのだった。 始祖の悪魔・シルバーヴァンデット撃破 ―始祖の悪魔、2体目も倒したか― 「これで文句ないでしょ、エストレア」 拠点に戻った四人は、エストレアに手に入れた3つの宝玉を渡すと、それを解放する。 光に包まれ、そこには九重匠、風見次郎、義貴つつじの3人が出現していた。 「…いくら俺でも、不思議な空間にワープする力は持ってないいないんだが…」 「…あれだけ色々あったしな。もう慣れたぜ…。なぁ、お前さん達」 「ん?どこ、ここ?」 3人は驚きもあるが、すぐに理解した。 また不思議な目にあわされた、と。 ―2階層目は水獄の階層。悪魔アスクレピオスが支配する海域だ― 3人を遮るようなエストレアの声があたりに響いた――。 ≪ツヅク≫
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終わりの始まり Border of Life ◆qwglOGQwIk 安眠誘導装置から目覚めたギガゾンビは上体をゆっくりと起こし上げ、伸ばす。 ふうと溜息を吐きながら、自身の置かれている状況をゆっくりと思い起こす。 そのせいで二度と思い出したくなかった、あの苦痛と恐怖に再度震える。 鼻が、耳が、指が、体の部位が次々と切り取られ、永劫とも感じられた激痛の時間。 あの男、グリフィスの拷問を思い返してしまい、その苦痛に顔をしかめる。 そこでギガゾンビは思考を切り替え、忘れよう、忘れようとする。 頭がまだぼやけていたせいか、そこから先をなんとか思い出すのを止めることが出来た。 現状把握をある程度終えたギガゾンビは安眠誘導装置から移動し、愛用のマスクを顔に再び装着する。 ギガゾンビは部屋を見渡すが、密告以来ずっとくっついて回ったフェムトの姿が見えない。 どうでも良い時ほどべたべたする癖、主人の目覚めに付き添いもしないとは怠慢な奴だと思った。 そこでギガゾンビはフェムトを怒鳴りつけるべく、部屋に取り付けられているはずの端末にアクセスする。 ……アクセスできないだと? 本調子にならずやや寝惚け気味だったギガゾンビも、何度アクセスしても端末が出現しないことには異変を感じる。 あの後何があったのか、ひょっとしたら最悪の結果となってしまったのではないかと思い、恐怖で心が塗りつぶされる。 恐怖を振り払いギガゾンビは状況を打開すべく部屋から外へ出ようとするも、やはり扉は開かない。 扉を押しても引いても引っ張っても全く動く気配すらない。 これでは埒が開かないと見たギガゾンビは部屋の中を物色し、何でもいいから使えるものを探す。 軽く物色した所で、ギガゾンビは安眠誘導装置の近くに置かれていた愛用の杖を発見する。 愛用の杖を取り戻し、扉に向かって光線を放つ。 元々城内の設備投資は割合ケチられているため、ギガゾンビ考える水準では安物の扉はあっさり光線の前に打ち砕かれた。 ギガゾンビ城の廊下に出るものの、廊下にはツチダマ達の姿は微塵も無く、それどころか通路には隔壁が展開されている。 「……クソッ、いったい何がどうなっているんだ。フェムトの奴は何をしているッ……!! 」 ギガゾンビが現状にふつふつと怒りを滾らせながら廊下へ出たところで、今頃寝室の端末にフェムトの姿が映る。 「ご無事ですか! ギガゾンビ様!」 フェムトの最優先事項はあくまで主ギガゾンビの生還である。 故にギガゾンビ救出班には彼の独断で特に多くの人員が割り振られ、加えてフェムト自らが指示を出し続けていた。 ギガゾンビの寝室はフェムトには最重要システムの一つであったため、主へのネットワーク回復及び救出にはほぼ全力が注がれていたのだ。 短時間での復旧が可能だったのは、この一点に他ならない。 「フェムト! 一体何がどうなっているッ!! 主人の世話をほったらかしにするとは親として恥ずかしいぞ! 」 「申し訳ありませんギガゾンビ様! 今ギガゾンビ様救出隊を向かわせているところです」 「……フン、まあいい。今回はお前の功績に免じて許してやろう。さっさと現状況を話せ」 「…………緊急事態が発生しました。バトルロワイヤルの参加者達が大挙してこの城に攻め込み始めました」 「何だとぉ!? 」 「……それだけではありません。城のシステムにハッキングが仕掛けられ、撃退に失敗。 全システムの殆どが停止、または敵の管制下に置かれました。」 「…………何だとぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 」 「申し訳ございません! 本当に申し訳ございません……」 ――気に入らん、気に入らん、気に入らん、気に入らん、気に入らんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 参加者の手綱である首輪の解除、加えて城内システムのハッキング。 どう考えても、バトルロワイヤル運営は不可能。この至高のゲームは停止に追い込まれるのは間違いないと判断。 ふつふつと怒りが沸き起こり、我慢の限界に達するのも近かった。 さらにフェムトから追い討ちの一撃がかかる。 「……更に悪い報告です。付近の亜空間に船影が発見され、この世界へ向かって航行中です。 …彼らの正体はタイムパトロール及び時空管理局の所属艦船かと。 我々の分析では、数時間以内に到着する可能性が非常に高いと予測されています」 ここに至ってギガゾンビは怒声も罵倒も出すわけでなく、ただ押し黙っていた。 フェムトも主の機嫌が悪い様子を察知し、なんと声をかけていいか押し黙らざるを得なくなっていた。 ――ゲームオーバーだと? ふざけるな。 ――――ふざけるなふざけるなふざけるな。 ――――――ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな ――――――ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな……………………。 ――――――これは一体なんだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!! ぷちっ―― ――ブチブチブチ、ブチ、ブッチーン!!! …………そしてついに、ギガゾンビの中で何かがキレた。 「…………ふざけるなあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!! 」 「す、済みません済みません済みませんギガゾンビ様……。哀れなわが子フェムトをどうか許してくださいませ……」 強烈な怒声を浴びせかけた後、罵倒や怒声を浴びせかけるではなくギガゾンビは押し黙る。 その間の悪い沈黙が数秒か、あるいは数分経過した所でギガゾンビが口を開く。 「…フェムトよ、押収物保管庫か格納庫のどちらかはまだこちらの手にあるか……? 」 「はい! なんとか押収物保管庫だけは奴らの手から守りきりました。 まことに申し訳ありませんが私の一存でギガゾンビ様救出のために私物を使わせて貰っています」 「……よくやったフェムトよ、押収物保管庫の4番目のコンテナの中に取り寄せバッグがある。 それを使って私を救出するがよい」 「はっ! 了解いたしました」 それを契機に端末はプツンと音を立てて機能停止をする。 再び静かになった廊下に、入れ替わるようにして新たな音が発生する。 「フヒッ…、フヒッ……、フヒヒヒヒヒヒヒ……………………」 ――許さん、許さん、絶対に許さん、私の、私の至高のエンターテイメントを邪魔するだと。 ――――そんなことは、決して許さない!! バトルロワイヤルが未完で終了するなど、決してあってはならないのだ!!!! ギガゾンビがバトルロワイヤルにかける情熱は並ならぬものではない。 彼は脱獄してさえ自由は無かった。 古巣のある23世紀には戻ることはできず、捜査の手が及ばないなんともみすぼらしい辺境世界で過ごす羽目になった。それだけでない。 珍妙不可思議にてうさんくさい30世紀の時空犯罪者、ヒエール・ジョコマンと上辺だけの同盟を結んだせいで男二人のむさくるしい共同生活を強いられたこと。 それだけの苦痛は、傲慢な男であるギガゾンビに決して耐えられたものではない。 ギガゾンビがそれだけの苦痛、苦渋を舐めても耐えた理由、それはバトルロワイヤルに他ならない。 バトルロワイヤルの完遂こそはもはやギガゾンビの夢であり、希望であり、生きがいであった。 それを完膚なきまでにブチ壊しにされた。ギガゾンビの夢が! 希望が! 至福が! フェムトの報告でガラガラと音を立て全て崩れ落ちた。 頭が真っ白になった。心の中で号泣を飲んだ。だがそれだけでは決して終われない、終わらせなかった。 ギガゾンビのバトルロワイヤルへの執念が、全てを否定されてさえ再起を促した。 ――バトルロワイヤルは完遂されなければいけない、人類史に残る芸術作品として永遠に語り継がれるべき至高の作品。 ギガゾンビの思いは、あれだけ自身を悩ませたグリフィスへの恐れさえどうでもよくなるものであった。 というよりも半ばヤケクソに近い。ギガゾンビ自身がどうやっても状況を打開できないのを一番良く理解している。 どうせ死ぬなら派手に暴れた方がいい、ただそれだけであった。 ギガゾンビはその場で佇むと、バトルロワイヤル完遂のために怨念と執念をフル回転させ、らしくもない深い思慮状態に入る。 そんなこんなで、彼はフェムトやツチダマ達の手で乱暴に取り寄せられたことさえ気にしては居なかった。 「フヒ、フヒ、フヒヒヒ………」 「ギガゾンビ様、どうか気をおたしかにっ……!! 」 フェムトの必死の呼びかけから少し遅れて、ギガゾンビがレスポンスを返す。 「…よい、よい、フェムト。私は何も問題ない」 「よかった。さあギガゾンビ様早く…」 そう言うが早く、ギガゾンビはフェムトから取り寄せバッグをひったくり、手を突っ込んで何かを取り出す。 「ギガゾンビ様! 何をなさっているのです」 「この状況を打開するための秘密兵器を取り寄せるのだよ。フェ、ム、トくぅ~ん」 そういってギガゾンビは何やら不思議な機械装置を取り出す。 フェムト、そして管理室のオペレーターツチダマ達は何が何やら分からない様子で疑問符を浮かべている。 「どういうことですか? フェムトに説明してくださいませ」 「この装置の中にあるロストロギアを使い、忌々しいクソ虫どもをこの手で殲滅するのだ…… バトルロワイヤルは、この精霊王ギガゾンビ自らの手で決着を付けるのだぁ!! 」 「ギガゾンビ様! 気をお確かに! 」 「さっきからずっと言っているが私は正常だよ、フェムト君」 「いえ、絶対に間違っています。ここは私達ツチダマに任せて即刻脱出の準備をするのです ギガゾンビ様のような偉大なお方が、ここで亡くなってはならないのです! 」 その言葉に同調するようにして、オペレーターダマ達もそうギガ!そうギガ!とコールをする。 最もフェムト以外の彼らは忠誠心からではなく、ギガゾンビの死による道連れに巻き込まれたくないというのが最も大きい。 そのギガギガコールを、一声によってギガゾンビは終結させる。 「くどいぞフェムト! 私は何としてでもバトルロワイヤル完遂を成し遂げなければならないのだ!! それは神から与えられた崇高にして私の偉大なる使命、それを諦めることなど出来はしない!! 」 「ですが……」 「君は何か勘違いをしているようだが、別に私は死ぬつもりなど更々無いぞ? 」 「えっ……一体どういうことでしょうか? 」 「しょうがない。哀れなフェムト君たちに、このギガゾンビ様が直々に秘密の全てを教えてやろうじゃないか!!! 」 ――ギガゾンビが取り寄せバッグで取り寄せた不思議な機械。 それは単なる機構を合わせただけの装置であり、未来で言うパッケージ化された道具という概念からは程遠い。 装置の機能としては、亜空間破壊装置の機能を拡張させたものである。 亜空間破壊理論というのはあくまで時空間や世界を破壊し、隔離するという技術である。 これだけではせいぜい舞台となる世界を用意するのが精一杯である。 そこで亜空間破壊理論を補佐するための機構を製作することにしたのだ。 それは千差万別の世界体系を持つ参加者たちを集め、バトルロワイヤルを円滑に運営するためにだけに作られた装置である。 便座上、ギガゾンビはこの装置に名前をつけている。 "世界統合構成装置"と。 製作者であるギガゾンビさえも、この装置の機構については完全に理解をしていない。 その原因は30世紀の技術であり、組み込んだロストロギアである。 ギガゾンビの知識範疇から考えれば、機構の半分以上ブラックボックスと化している始末である。 だがこの装置も、ロジック単位で見れば役割は比較的単純だ。 ベースとなる機構はひみつ道具のもしもボックスである。 もしもボックス自体はギガゾンビの技術分野であるため、完全に構造や理論は把握している。 ごく単純に言うならば、もしもボックスの理論というのは現存する一つの世界上に使用者の意思に従った擬似世界を構築するというものである。 重要なのは一点、"使用者の意思に従った"、つまり望みどおりの世界を設計することが出来るというものである。 ギガゾンビはこの一点に着目し、あらゆる並行世界の法則体系を包括し、魔法も科学も超常も異能も存在する世界を構築することが出来ないかと考えたのである。 だが、もしもボックスで作り出した世界は所詮擬似世界、擬似世界は元の世界のルールに従い、平行世界の法則体系を整合性が合うように調整しただけに過ぎない。 例えば科学技術の変わりに魔法技術が発展した擬似世界を作り出したとしよう。その魔法というものは、根底は元の世界の法則体系に根差している。 他の平行世界で運用される魔法や魔術などとは、根元の法則そのものが違う。 もしもボックスで構築された擬似世界は、包括する体系の違いから整合性に問題が出るのも必然といえる。 その整合性の問題を解決する上でギガゾンビはヒエールから得た技術である、平行世界に干渉するための機構を利用した。 亜空間や時空間技術に精通するギガゾンビは必死の勉学の末、平行世界機構の複製を行うだけの技術を手に入れることは出来た。 それでも複製レベルに留まり、応用技術といった話には手も足も出ない。 だがこの機構により、23世紀では元の世界体系というハードウェアに手も足も出なかった擬似世界構築に対して新たな一手を打つことが出来る。 すなわち世界体系というハードウェアレベルで任意の世界設計を行えるのである。 これならばバトルロワイヤルにふさわしい世界構築を行えるはずであった。 だが問題は発生した。ロストロギアレベルの超大な力に関しては世界の整合性こそ取れるものの、制御不能なのである。 ギガゾンビがブチ当たったその問題の発生源は、涼宮ハルヒの世界構築能力、闇の書の守護騎士プログラムやサーヴァントシステムを筆頭に枚挙がない。 ロストロギアは闇の書を始めとして、元の世界を離れ各平行世界に散らばっている物である。 完全に法則が違う世界にも関わらずその世界体系の下で自己の整合性を保っているのは、システムの独立性に他ならない。 ロストロギア単体で一つの法則体系が構築されており、他世界の法則に依存しないからこそ普遍的な力を行使可能なのだ。 このように独立した機構かつ、魔法体系で構築されたとなれば魔法体系を用いて制御干渉を行わなければならない。 そんな技術はお手上げに等しかった。 そこでギガゾンビは単純な方法を思いつく、餅は餅屋に、すなわち、魔法は魔法に、ロストロギアはロストロギアに。 ギガゾンビが組み込んだロストロギアとは、世界を超えるほどの絶大な力を持ち使用者の願いを叶える魔法のトランプ。 その名もスゲーナスゴイデス。 オカマ魔女のマカオとジョマが平行世界を超え、ヘンダーランドを作り上げることができたのはこのトランプの力に他ならない。 ロストロギアとは、過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称のことである。 正確に言うならば、スゲーナスゴイデスは時空管理局の定めるロストロギアの定義からは外れている。 だがギガゾンビにとっては高度に発達した技術や魔法、タイムパトロールや時空管理局の手に負えないものならば何でもよかったのだ。 スゲーナスゴイデスはギガゾンビの主観から言えば、ロストロギア扱いである。 ロストロギアは危険なものが多く、制御に失敗すれば一つの世界をも滅ぼしかねない。 ロストロギアの管理を専門とする時空管理局でさえ、問題を起こさないように保管するのが精一杯といったレベル。 専門家にさえ手のつけようが無いという一点においてはこのバトルロワイヤルの円滑な運営には必須のものであった。 だがそんなものが用意に扱えるはずがなく、その殆どはギガゾンビの手に負えるものではない。 ギガゾンビが数あるロストロギアの中からスゲーナスゴイデスを選んだ理由は、制御の容易性にこそある。 ジュエルシードはロストロギアの典型例である。願いを叶えるロストロギアである。 だがギガゾンビが活用するという観点から見れば、スゲーナスゴイデスとは天地ほどの違いがある。 スゲーナスゴイデスは願うだけで魔力の欠片もない子供でさえも力を行使し、簡単に願いを叶えることが出来る。 対してジュエルシードは実質的にはエネルギーの結晶体であり、同じ願いを叶えるために魔法技術を用いなければならない。 魔法技術に関しては前述の通りほぼ何の知識も無し、となればギガゾンビには制御不能である。 それでも何かの役には立つと思い、回収しておいたのがグリフィスに与えたものだ。 もう一つ、スゲーナスゴイデスのトランプはその性質にも重要性が高い。 願いを叶える能力を持った52枚のトランプと、一見して何の役にも立たないジョーカー。 だが願いを叶えるための力の根源はジョーカーにこそある。 言うなればジョーカーはシステムの核で、通常の札は端末といった関係にあった。 ロストロギア研究に長い時間をかけた末、その特性だけは知ることが出来た。 この特性こそが亜空間破壊装置を補完し、30世紀の技術体系でも手も足も出ない完全な空間隔離に有用な性質を持つのである。 亜空間破壊理論そのものはギガゾンビが発見し、体系化した技術である。 そのギガゾンビの熱意の結晶ともいえる亜空間破壊理論も、7世紀も経てば簡単に陳腐化する。 陳腐化したとはいえ、亜空間破壊技術はバトルロワイヤルの運営の核とも言える技術であった。 代替として用いることの出来る技術も他になく、陳腐化したその技術に頼らざるを得なかったのである。 そこで陳腐化した技術の価値を復活させる意味で、ロストロギアを用いることになった。 亜空間破壊装置の機構体系をスゲーナスゴイデスの力でロックすることで、亜空間破壊機構を保護し、干渉不可にすることが出来る。 亜空間破壊機構にはもう一つの問題があった。 安全性の問題と空間隔離の関係上どうしても装置を最低6つに分配する必要があること、空間への装置固定が必須であること。 制御が容易で6つの亜空間破壊装置に組み込める同等の性質を持つロストロギアとなれば、該当する品目は少なくなる。 52枚もあるスゲーナスゴイデスならば6つの亜空間破壊装置に組み込むのはたやすく、制御の容易性を持つという観点からも筆頭候補となったというわけだ。 ギガゾンビはスゲーナスゴイデスを亜空間破壊装置、及び世界統合構築装置に組み込むことでバトルロワイヤル参加者の整合性問題、亜空間破壊機構の保護を成し遂げたというわけである。 制御方法は至ってシンプル。ギガゾンビが円滑にバトルロワイヤル運営に都合のいいように、ゲームバランスを取れるようにと願うだけでよい。 そのためにトランプという端末を通じて核となるジョーカーに働きかけただけである。 更に言えばトランプに正確に願いを叶えさせるために、もしもボックスの世界構築を通して決定している。 ギガゾンビでは手も足も出ないロストロギアレベルの問題の典型例、闇の書の守護騎士プログラムの分離独立を成し遂げることが出来たのもこのためである。 だがそれは力技で同レベルのロストロギアを強引にねじ伏せたに過ぎない。 均衡が崩れればどうなるか分からないというのは皮肉にもジュエルシードと闇の書の暴走で証明された。 しかし本来はそのような事態は絶対ありえないのである。ギガゾンビがそういうようにバトルロワイヤルの舞台を設計したからだ。 亜空間破壊装置を通じて世界全体のバランスを効率的に調整し、世界統合構成装置からの力の供給によって亜空間破壊装置の出力増強という安定性を高める相互システムによるものである。 システムの安定性は高く、亜空間破壊装置が3つ以上健在ならば問題が発生しようと簡単に安定形に戻すことが出来たはずであった。 だが亜空間破壊装置が6つ全て破壊されてしまった今、安定性を高めるためのシステムが皮肉にも本来の役割を果たせないほどに不安定になっている。 不安定性が顕在化したのが劉鳳のアルター進化であり、涼宮ハルヒの覚醒であった。 どれもシステムさえ顕在ならば、簡単に抑え込めたはずだった。だが現在、システムは文字通り完璧にダウンしている。 それでも参加者に対する制限があるのか無いのか分からないレベルでも今だ保持されているのは、ギガゾンビがその手に持つ秘密の装置のお陰に他ならない。 全てを教えるといい、言葉通り本当に全てを話すギガゾンビ。 長っが~~いギガゾンビの技術話についていけるツチダマなど、フェムトを含めてゼロである。 この一刻一秒を争う正念場において、ギガゾンビはバトルロワイヤルを継続する理由を説明するために、前置きが長すぎて本文にすら至っていなかった。 それに耐えかねたオペレーターの一体が、耐え切れなくなってついに口を漏らす。 「…で、その装置がギガゾンビ様の生存にどう絡んでくるギガ? 」 言ってはならない一言を言ってしまい、ギガゾンビの話はグッキリと腰が折れる。 発言したオペレーターは一秒後にギガゾンビの機嫌を損ねたことを把握し、その場でどうかお許しくださいませ!などと命乞いを始めた。 普段なら死刑執行確定のツチダマのことなどどうでもよいギガゾンビは、冷静に考えると貴重な時間を無駄にしていたことを理解する。 「そう、一言で言うならばこれはルールだ!! バトルロワイヤルを正々堂々と行うためのルールだ!」 と言い切るギガゾンビ、そしてフェムトが口を挟もうとした矢先に更にギガゾンビは言葉を進める。 「いいかフェムト! 奴らはフェアプレーどころか重大なルール違反を犯した。心の広いギガゾンビ様でももう許してはおけけないのだよ! そこで不本意であるが奴らと同じく、こちらもルールを守ることをやめることにした」 そういってギガゾンビは装置の蓋を開け、装置にセットされていたトランプ、スゲーナスゴイデスを引っこ抜く。 「スゲーナスゴイデスの力があれば、全部は無理だがシステムと管制の一部を取り戻すのも容易い 何せ、願いを叶える魔法のトランプなのだからなぁ!! 」 「ではギガゾンビ様、尚更脱出をするべきではないのでしょうか! 」 「……いいかフェムト君、この私を舐め腐った生贄どもを生かしておくことは決して出来ないのだよ! そこで私直々に、己の身分を弁えないクソ虫どもに制裁を加える必要があるッ!! 」 「……ですが、それでも私はギガゾンビ様の安全第一を考えておりまして」 「フェムト君、さっきから何度も言っているが君は大きな勘違いをしている。逃げた所で無駄なのだよ。 このまま逃げ出したとしてもタイムパトロールが私の存在抹消の極刑を執行すれば、全ての事象が無かった事になるのだからなぁ!! そしてその執行はまず間違いなく執り行われるッ!! 」 『『『な、なんだってー!! 』』』 フェムトを除いたツチダマ軍団は大パニックである。 進むも地獄戻るも地獄、どうやっても自分達の生存は絶望決定。 光景はこの世の終わりである、その場に居るオペレーターのツチダマ達はてんやわんやで自分達がもう何をすればいいか分からないといった始末である。 フェムトだけがギガゾンビの趣旨が分からないといった様子で、困惑した目で続きを待つ。 「話をよく聞かんかツチダマどもめ! 天才の私はちゃ~んとその対策は考えてあるのだからなぁ! 」 その一言で混乱がすぐに静まるでなく、まだ現状を把握できずに逃避行動に走るツチダマも居た。 このままでは話が続かないと判断し、見せしめもかねて適当にツチダマの一つを杖で爆殺する。 その爆殺音で、ようやく混乱は静まった。 「ですがギガゾンビ様、反逆者どもと戦うことにどういう意味が? 」 「…話の続きを聞けば分かる、今度は黙って聞くことだな」 23世紀の極刑、存在抹消に対するタイムパトロールの判断基準は明確に決まっている。 すなわち、存在抹消を行えば手っ取り早く歴史の整合性を取れる場合である。 ギガゾンビは多数の時系列と平行世界に対する干渉を行っている。その影響を取り除くのは一筋縄ではいかないだろう。 多大な労働力をかけて歴史を修正するよりも、存在そのものを抹消して無かった事にするのが最適な判断だ。 ギガゾンビが最初に犯した大規模な歴史改変は、司法判断によっては存在抹消さえもありえた。 しかしギガゾンビの功罪、ヒカリ族を日本へと移住させるきっかけを作ったという事実がある。 日本の歴史に深く関わる功罪がある以上存在抹消とはいかず、そのお陰で懲役刑による刑務所暮らしで済んだというのだ。 しかし今回はそうはいかない。 前回とは規模が桁違いのため、日本誕生の功罪を差し引いても存在抹消される事はギガゾンビ自身が確実視している。 存在抹消だけは避けたいのは、ギガゾンビもツチダマ達も共通であった。 ギガゾンビが描いた青写真というのは、こうだ。 それこそもっと問題の規模を大きくし、手がつけられないほどにしてしまえばいい。 ギガゾンビがバトルロワイヤルを運営するべきもう一つの理由、それは資金の問題である。 ゲーム終了後にギガゾンビはバトルロワイヤルという至高の娯楽を提供し、顧客である富裕層から利益を上げる。 この富裕層というのは、ギガゾンビがスポンサーとして提携するにあたって条件が加えられている。 バトルロワイヤル完遂に協力し、ギガゾンビの計画を陰からサポートすることである。 この条件に該当するとギガゾンビが判断したスポンサーとのみコネクションを保持している。 しかしギガゾンビが不適当とした顧客層も数多く、存在抹消回避において利用する価値が生まれるのである。 バトルロワイヤルを求める富裕層、権力層に訴えかけるのだ。 "どうか私と私の作品を抹消させず、後世まで永遠に残してください"と。 ギガゾンビの提携するスポンサーは30世紀の未来から平行世界まで多岐に渡る。 当然彼らの中にはタイムパトロールや時空管理局のような組織にまで権力が及ぶものも居る。 彼らの力を借りて、存在抹消だけは避けるように圧力をかけさせれば良い。 存在抹消が最大の極刑であるのは、未来永劫にわたって歴史に影響が出るという一点である。 そのため歴史改変クラスの大犯罪でさえ、存在抹消が施行された事例というのは長いタイムパトロールの歴史の中でも極めて少ない。 未来にも影響が及ぶ以上、存在抹消に当たって発生する未来への影響を厳密に調査する必要がある。 その結果として干渉が及ぶと考えられる時代の司法も存在抹消施行に関わる必要があるというのだ。 当然各時代の視点から厳密な話し合いが必要となるため、妥協案で存在抹消が回避されるというケースが大半を占める。 そのために実際に施行に至ったケースなど殆ど無いというものだった。 だがギガゾンビのケースは各時代レベルでなく、各世界レベルの大規模干渉である。 明らかに悪影響が明白な以上、功罪の面から見れば存在抹消が最も妥当な判断となってしまうだろう。 幾ら権力者でも、司法判断を覆すほどの力は無いだろう。多数の時代が判断を下す以上、状況を完全に好転させるのはまず不可能だろう。 顧客層を広げた副次効果として、各時代や各次元の干渉を更に大規模、超規模化することになる。 ギガゾンビの想定では、顧客層の一部がバトルロワイヤル存続のために派手に動き、結果として共犯者として捕まるだろう。 誰か一人捕まったならば芋蔓式でどんどん調査が複雑化し、より多くの共犯者が生まれるだろう。 その共犯者が犯罪者ならば問題ないと言った所であるが、彼らは富裕層や権力層である。 そうなればギガゾンビ本人の問題では済まない。最悪の場合は大規模スキャンダルで政府が傾く可能性さえある。 それだけ問題が多角化、巨大化すれば人間の手で処理できるはずが無くなる。 言うなれば司法という天秤が白黒付けるのを止めるために、100tの重りを載せて天秤そのものを壊してしまったといった所か。 判断を下すべき天秤が壊れてしまえば、どうやっても刑罰の判断が出来ないという理屈である。 「というわけだ、分かったかねフェムト君。 私がここに残ろうが残るまいが、まずはバトルロワイヤルをしなければ意味が無いのだよ」 「ギガゾンビ様、そんなに深くまで考えていたのですね……」 それに呼応するようにして、スゲー、頭いいギガなどと、ギガゾンビを褒め称える発言が各地で沸き起こる。 ギガゾンビの理屈に納得をしてしまったのと、とりあえず自分達も生き残れるかもしれないという安堵感からであった。 「フェムト君、ここにはジョーカーと52枚中残り28枚のトランプが収められている。 12枚は亜空間破壊装置に組み込まれ失われた。もう12枚とジョーカーはこの世界統合構成装置の機能を維持するのに必要なのだよ。 君には10枚のトランプを与えよう。どうしてもやってもらいたいことがあるのだよ」 「ギガゾンビ様、私は何をすれば良いでしょう! 」 「格納庫の最奥部にある特別コレクションルームへと向かうのだ。 スゲーナスゴイデスのトランプは何枚使っても構わん。このギガゾンビ様専用にして最強最大の機動兵器、ザンダクロスを奪還するのだ!! 」 そういってギガゾンビはトランプを一枚構え、呪文を唱える。 「スゲーナスゴイデス! 」 トランプから発生した煙とともに、目の前には小さなロボットが現れた。 「これがザンダクロスだ。間違えるんじゃないぞフェムト君」 「はっ、了解しました! 」 「少々不安が残るな、いやしんぼの君には特別にもう三枚だけ使うことを許そう」 そういってトランプを手渡すとともに、フェムトは凄い勢いで駆け出していった。 ギガゾンビはその様子を眺めると、殆ど仕事をしていなかったオペレーターツチダマ達に指示を出す。 「いいかツチダマども、復活した天才ギガゾンビ様の指示に従うがよい! ツチダマにしてはフェムトの仕事はなかなかに見事だ、指示系統はこのまま継続して運用する。 管理ナンバーの下一桁が1のものは、このギガゾンビ様救出の任務が終了したので新たな使命を与える。 ギガゾンビ様の押収物保管庫にあるありったけのスパイセットと石ころ帽子を使い、このバトルロワイヤルの行く末を記録しろ。 私はどうしても私室でやらなければならないことがある。しばらくはフェムトの指示に従い何としても耐え抜け」 「「「「「「「「了解しました、ギガゾンビ様!」」」」」」」」 ツチダマ達の気合の入りようが違う。自身の生存と存在がかかっているのが最も大きい。 だが馬鹿にしていたはずのギガゾンビがここに来て主人らしさを取り戻した点も重要である。 普段なら話すら聞かず死刑確定のツチダマがギガゾンビとあれだけコミュニケーションを取れたというのが異質なものである。 だからこそその点をグリフィスに付け込まれ、孤立という事態になってしまった事もあった。 その離反も収め、この土壇場になってまるで豹変したかのような思考判断から、ツチダマ達は気合を入れて命令に従う気になったというわけである。 ツチダマ達を鼓舞し終えたギガゾンビは、取り寄せバッグを手に持ち司令室を離れる。そしてすぐ近くにある私室へと向かった。 途中の廊下や私室のシステムも一部ハッキングがかけられていたが、スゲーナスゴイデスの力で無理やり引き戻す。 ギガゾンビは取り寄せバッグを用いて、独自調査の顧客リストを取り出す。 それは勿論至高の芸術であるバトルロワイヤルをあらゆる世界に発信するためである。 ギガゾンビは端末に触れると、バトルロワイヤルの映像を保存したサーバーへとアクセスをする。 幸いにもバトルロワイヤルの映像記録は全てが無事に揃っていた。 ギガゾンビは私室備え付けの通信端末から、重要スポンサーから順番にバトルロワイヤルの映像とメッセージの送信を始めた。 ツチダマ達がてんやわんやと忙しく格闘する中、バトルロワイヤル配信事項と平行してギガゾンビは世界統合構成装置を弄る。 それにたった一つ命令を下す。 "12時、地球破壊爆弾を可能な限り最大の規模で爆発させる" 加えてギガゾンビは、入力した命令に削除不能、状態変更の場合最優先で実行と設定を行った。 ギガゾンビ城ハッキングの反省を踏まえ、装置は少しでも干渉したらドカンという危険極まりない設定を行った。 かつての臆病者のギガゾンビならともかく、キレてしまったギガゾンビに躊躇は微塵も無く、自身の崩壊を恐れずに背水の陣を引いた。 そもそも、この装置自体もう長持ちさせる必要は無いのだ。 恐らく12時にはタイムパトロールや時空管理局が到着してゲームオーバーである。終了したゲームにルールは必要ない。 現在、世界統合構成装置は最低限の動作しかしていないのに加えて、安定化を図るべきスゲーナスゴイデスが引き抜かれ過負荷がかかっている。 その故障は時間の問題である。だが装置を止めることはギガゾンビにも出来ない。 装置を止めることが出来ないのは、闇の書という存在によるものが大きい。 闇の書の防衛プログラムの暴走がギリギリのところで食い止めるために出力低減され、そのために装置容量のほぼ全てが費やされている。 もし完全に装置を停止したならば、出力抑制の反動により防衛プログラムは手がつけられないレベルまで暴走するであろう。 ギガゾンビの目的はもはや生き残ることにはなく、バトルロワイヤルを完遂し、後世に残すことにこそある。 自身をコケにした生贄ども、特に宿敵である青ダヌキの子守ロボットことドラえもんだけは決して生かしてはおけない。 自身の手で復讐を達成するという意味でも、今更ギガゾンビはバトルロワイヤルを止めることは出来ない。 ギガゾンビが思い描く結末の形とは復讐を達成し、バトルロワイヤルを完遂することである。 事が最高にうまく進めば生き残ることも出来るかもしれないが、そううまく行くわけが無い事をギガゾンビは学習している。 ありえないはずのイレギュラーが次々に起こり覆され続けているのが現在の状況だ、妥協点に達しさえすれば十分であった。 フェムトを納得させるためにギガゾンビは嘘を付いたのである。ギガゾンビが今後について結論を想定した時点で、元々生還を捨てていた。 どう立ち回ろうとも、死刑だけは逃れることはできないという結論である。 司法が成り立たなくなるほどの大規模問題に発展したとしても、それでも犯罪者には最終的に刑罰を執行せざるを得ない。 罪が裁かれなければ、法治は成り立たないのである。その妥協点はほぼ間違いなく存在抹消に次ぐ死刑。 生還は絶望的だ、だからこそ今まで決定できなかった大胆な判断を下すことが出来るのである。 フェムトらツチダマに教えてはならない秘匿は二点、自身の死亡がほぼ決定していること。そして世界統合構成装置にセットされた地球破壊爆弾への命令だろう。 どちらかが発覚すれば、無駄だと分かっていてもツチダマ達は血眼でギガゾンビを生還させるべくタイムマシンへと強引に引っ張りこむであろう。 世界統合構成装置がツチダマ達に秘匿されていたのは単純にいい加減なツチダマ達ではたった一つしかない最重要な機構を任せられないと判断したことからだった。 何より一度決定したルールを覆すといったフェアプレーに反する行為をギガゾンビ自身が嫌っていた。 ルールの範疇で動くからゲームは面白いのであり、ルール無用のゲームに面白さは無い。 そして今は、ギガゾンビのヤケクソとハッタリを守るという理由で秘匿をすることになった。 ツチダマ達は余りにも過酷な状況のため主人のギガゾンビにさえ頭が回らないという好都合な状態へと移行している。 秘匿に関しては、何の問題も無いだろう。 ギガゾンビが平行した作業を終えた時点で、まず一つ目のスポンサーへと映像とメッセージが送られた。 そのメッセージの結末にはギガゾンビの夢が、執念が込められていた。 "…この映像を拝見した皆様、どうかあなたの手で私のバトルロワイヤルを完成させてください。 それだけが私の望みです。 バトルロワイヤル運営・主催・最高取締役 ギガゾンビ" 【α-5/ギガゾンビ城・廊下/2日目・夜中】 【ホテルダマ(フェムト)】 [道具]:スゲーナスゴイデスのトランプ13枚@クレヨンしんちゃん [思考]: 基本:ギガゾンビ様の望みに従い、バトルロワイヤルを完遂させる 1:格納庫へ進入、ザンダクロスの奪還を行う。 2:ギガゾンビ様の存在を守るために、バトルロワイヤルを完遂させる。 3:タイムマシンを駆動し、ギガゾンビ様を無事生還させる 4:生き残り、闇の書、TPに対処 5:ギガゾンビ様が脱出したら、地球破壊爆弾を爆発させ全ての敵を道連れにする 【α-5/ギガゾンビ城・ギガゾンビの私室/2日目・夜中】 【ギガゾンビ@ドラえもん のび太の日本誕生】 [状態]:ブチ切れ、決死の覚悟 [道具]:スゲーナスゴイデスのトランプ10枚@クレヨンしんちゃん、ギガゾンビの杖、取り寄せバッグ@ドラえもん [思考]: 基本:バトルロワイアルの完遂。 1:バトルロワイヤルの映像を顧客に配信する。 2:ザンダクロスを用いて、参加者を直々に粛清する。 3:可能ならばタイムマシンで生還・脱出 最終行動方針:バトルロワイヤル存在抹消の阻害 ※ ギガゾンビはバトルロワイヤルの映像記録を配信中。全ての顧客に配信が終わるまで約一時間程 世界統合構成装置はギガゾンビの私室に置かれています。 ※スゲーナスゴイデスで具現化した物体等は、一定時間経過後に元に戻ります。 トッペマのように魔法の力を行使する分には元には戻りません。 一度使ったスゲーナスゴイデスのトランプは本編同様消滅します。 ※ ギガゾンビ城内の隔壁はそのほとんどがトグサ(タチコマ)によって閉じられています これは、トグサ側の操作によって自由に開閉することができます 現在、ギガゾンビの寝室および、タイムマシン発進所は、隔壁によって隔絶されています ※ ギガゾンビ城の押収物保管庫には、ギガゾンビが各世界から持ち出したもののうち 支給品として配布されなかった物が置かれています それが何で、どれだけあるかは不明 ツチダマ達がそれを持ち出して使おうとしています ※ 亜空間より近づく船影はタイムパトロールか時空管理局の艦艇。12時までには到着予定 ※ 地球破壊爆弾は12時丁度、もしくは少しでも干渉を加えた時点で爆発。 解除するには地球破壊爆弾と世界統合構成装置両方の無効化が必要。 投下順に読む Back 陽が落ちる(5)Next 夜の始まり、旅の始まり -Fate- 時系列順に読む Back 消えずに残るモノ、蘇ったモノ -Eternal Blaze-Next Moonlit Hunting Grounds 293 陽が落ちる(5) ホテルダマ(フェムト) 297 今、そこにある闇 293 陽が落ちる(5) ギガゾンビ 297 今、そこにある闇
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エピローグ~one year later…6~ 桜が咲き、4月の中頃を告げ始める時期。 ハンターギルド蒼本部では、九重匠が欠伸をしながら、受付で釣り番組を見ていた。 同様に、蒼特区ギルドに所属していた小此木剛毅も、ソファーにふんぞるように座り番組を見ている。 それは蒼の川釣り特集で、ちょうどこの辺りのポイントの釣り場が映っている。 「いやぁ…久しぶりに釣りにでも行きたいねぇ」 「ふぁぁ…こう依頼が少ないと、暇なのはわかるけどな」 「どうだい?これから釣りでもしに行くかい?」 「ま、いいぜ。暇だし付き合ってやるよ」 「アホかーーー!!」 小此木と匠のやり取りに割り込んだのは、尸ヨミだった。 突如ギルド入口から聞こえた大声に、二人は一瞬驚くも挨拶をする。 「なんだ、君か」 「1年ぶりか芸人。なんの用だ?」 「そーですー、ワイですー。ってかワイここ所属やからいるのは当たり前ですー!」 ってちゃうわ!と裏拳で一人ノリツッコミをしつつ、ヨミは匠に指を差しがみがみと叫ぶ。 「アホちゃいますか!?ギルド長が釣りとか、その間ギルドどうすんねん!今日受付の子休みやろ!」 「そうなんだよねぇ…ああ、丁度いい、君が代わりにやらないかい?」 「やらんわアホ!!これから葵行って、オーディションあるんです~!」 「また行くのか?こりねぇ奴だな」 小此木はヨミのカバンからはみ出ているチラシに気が付く。 そこには今日の日付で、葵のテレビ局で『新人発掘!未来の芸能人オーディション』という内容が書いてあった。 ギルドで食い扶持を稼ぎつつ、オーディションをもう10回は受けているヨミに呆れるような視線を向ける小此木。 「そや。11回目のプロコースって番組も昔やってたやろ」 「そんなのあったかな…?って、これ二人一組の参加になってるよ?君、いつもソロでオーディション受けてなかった?」 「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」 もったいぶるように「知りたい?知りたいか?」と尋ねるヨミ。 明らかに話したがっている相手に、匠は目を細め「知りたいねぇ」と適当に付き合ってやる事にした。 一方小此木は、興味を完全に失い、寝てしまったようだ。 「カモン!ヒロキ!」 と盛大な前フリをしたはいいが、その後ギルドに普通に入ってきた日浦博喜に匠は可笑しそうに笑ってしまった。 「あ、話終わった?」 「打ち合わせとちゃうやん!何やっとんねん!『どもども~ヒロキです~ヒロキという単語を使ってボケを一つ』って入る打ち合わせしとったやん!」 「お、この依頼ええな。ギルド長、この依頼請けたいんですけど」 「ああ、それね。ごめん、小此木くんが達成しちゃったよ、もう。依頼人がもうすぐ来るから、それで解決さ。」 「ワイの話を聞けーーーー!!!」 「あんまりカッカするなや、ヨミ。依頼を受けて金を稼がんと、整体院での修行もできんやろ?」 「うぐ…ま、ヒロキの言う通りやな。正鯛院デビューを目指すには、金が必要やもんな…」 「ん?」 違和感に気付いたのは匠だった。 むしろ小此木は沈黙を貫いているので、彼しかいないのだが。 「久しぶりに見たけど、日浦くん今は何をしているんだい?」 「俺ですか?俺は小原井大学って通信大学でアスレチックトレーナー勉強中なんですよ~。だから、あんまりハンターの仕事をしていないってわけやな」 「へぇ、小原井か。あそこはスポーツ関係で有名になった人も数多く出してるし、トレーナーとしてもそういった選手のサポートをしている者も多いはずだ。いい場所を選んだね」 「お笑い大学とか、二流が行く所やけどな!ワイに言わせれば!!まあそのやる気だけは認めてやらんこともないわ!」 「…」 既に匠は気づいた様子だったが、面白そうだから黙っておくことにしたようだ。 そして、小此木も微妙に食い違っている話に顔を上げ、視線を一度だけ向けたが…まあいいか。と言わんばかりに再度寝に入ってしまった。 「それじゃ、頑張ってね。もうそろそろ葵に行くリニアに乗らないといけないんだろう?」 「おっとそうやった!ほなな!ギルド長サボんなよ!いくでヒロキ!」 「OKヨミ!」 慌ただしく、二人が出て行った後に小此木が再度顔を匠の方へと向けた。 「お前も人が悪いよな。教えてやればいいじゃねぇか。あの阿呆に」 「こういう事は人が指摘するより、自分で気づかないと。それにもし、勘違いしたままでオーディションに受かったら、それはそれで面白いと思うよ僕は」 「ま、俺にはどうでもいいけどな」 もう一度、嵐のように去って行った博喜とヨミの方を見ると、欠伸をもう一つして小此木は眠り始める。 匠も、その後は真面目に受付の仕事をやっていくのだった――。 ◆日浦博樹 異次元帰還後、蒼ギルド所属としてハンター活動の傍ら、通信制の大学でアスレチックトレーナーを勉強中。 紅の整体院で修行と称したバイトをしている所を、ちょうど東雲直に発見され、ひょんなことからヨミにその話が伝わりコンビを組むことになる。 整体院に詳しく、また通信大学の小原井にも精通している事を知り、コンビを組んでヨミからその情報を引き出している。 ◆尸ヨミ 異次元帰還後、蒼ギルド所属のままハンター活動を行う。 一方で芸人になる事を諦めておらず、たくさんのオーディションを受けているが落選。 そんな中、友人である東雲直との雑談中に、博喜が正鯛院というお笑い番組を目指している事を知り、スカウト。 今はお笑い大学の通信制を受けている博喜の本気に応えるべく、なぜか整体の知識も揃えさせられつつ立派なコンビを組むべく勉強中。 このすれ違いは、そう長くは続かないだろう。 ☆ 「…おや?珍しいね。君が来るなんて…」 「お久しぶりです、九重ギルド長」 相も変わらず、受付に長期休みを与えてしまったため受付に立つ匠の前に現れたのは、珍しいハンターだった。 甚目寺禅次郎。 匠も、彼の顔を見るのは1ヶ月ぶりだった。 博喜は久しぶりではあっても、通信学校へと入ったという情報はギルドでも把握していたため問題なかったのだが、禅次郎はハンターとしての活動も月に1回あるかどうか。 少し心配混じりに「最近どう?」と聞こうとした匠だったが、それを遮ったのは小此木だった。 「やっと来たか。とっとと行くぞ」 「あ、待ってください小此木さん。それじゃギルド長、また解決したら来ます」 「ん?…ん?」 呆気にとられながら見送る匠。小此木と共に、禅次郎は慌ただしくギルドから出て行ってしまった。 暫くそうしていると、ギルドの電話が鳴る。 依頼の電話かととると、紅ギルド神風学園支部からの電話だった。 『おう、九重。今日もどうせ暇だべ?風見が今日大和に帰国してるみたいだから、飯でも食いにいかねぇか?佐治会だ佐治会!』 「…ええ。いいですよ。どうせ暇になったので、蒼ギルドでやりません?」 『お、そうか?んじゃ21時過ぎると思うから、泊まれるように布団用意しとけや!!』 自分の伝えたい事だけ伝えると、電話を切る佐治宗一郎。 一人取り残された匠は、煙草に火をつけると、寂しそうにテレビを見始めた――。 ◆九重匠 異次元帰還後、蒼ギルドでのんびりと変わらずギルド長を務めている。 時折り、サボりながら。 最近、すぐに解決するため依頼待ちの小此木と駄弁る事が暇つぶしになってきていた。 そのため(?)、結婚はもちろん浮いた話すら現在の所、無い。
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第三階層・七竜の階層 エストレアが、魔力により巨大な鏡を創り出す。 そこに移っているのは、第三階層、七竜の階層だった。 その階層のエリアは、岩山、海、火山など様々なバリエーションに富んでいる。 『…』 「!」 柳茜は気づいた。 霧に包まれた地にて、魔王竜アドラメレクが待っていることに。 そして、桐石登也も気づいてしまった。 「ウバルッ…!」 登也の見る先には、明らかに飛鳥のものではないエリアが広がっている。 白く輝きに満ちた極光の城塞。 間違いなく、ウバルの居城だ。 そんな彼を横目で見つつ、茜は尋ねる。 「…アドラメレクも始祖の悪魔ってわけ?」 ―否、奴は試しを行うモノ。ここから先、進む権利があるのかどうかを。お主をな、柳茜― つまり始祖の悪魔じゃないわけだ、と呟く茜は、ずっと鏡に映る霧の大地を見続けていた――。 始祖の悪魔コピークレイドル撃破 ―始祖の悪魔、これで4体目か― 「ちょっと、悪魔だったんだけど」 ―コピークレイドルはどのような者でもコピーができる。我も欺かれたものだ― 「とにかく解放してよ」 拠点に戻った五人は、エストレアに手に入れた3つの宝玉を渡すと、それを解放する。 光に包まれ、そこには鎮守由衛、王貴桃李・双星ポルックスの3人が出現していた。 「シズっちゃん、大丈夫?」 「おいおいおーきちゃん…なんだか僕たち、すごいところにいるみたいだぜ」 「はれ?ここは…?えええっ!?どこですか!?それに…貴方は!?」 意外と落ち着いている王貴と鎮守に対し、双星は混乱し、派手な男を見て更に慌てふためく。 ―4階層目は冥府の階層。アンデット共が蔓延る地となる。心するがよい― ≪ツヅク≫
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エピローグ~one year later…16~ 桐石登也や天瀬麻衣達の船が沈没した数日前。 豪華客船エルスール号に、一人の男が乗船していた。 男は夜の甲板に出ると、人気が無いのを確認して背後を振り返る。 「よう、会いたかったぜナンバー5」 「気持ちが悪い台詞は辞めてもらえるかしら?」 ナンバー5と呼ばれた少女は、大気中を急速に冷やしていく。 それはカノンが見せたような魔術と似ているが、それより遥かに上回る程の広範囲で、船の事などお構いなしに全てを凍りつかせていく。 対峙する男、水鏡流星は鼻で笑うとナイフを取り出した。 「悪いが、お前さんと心中する気は全くないんでな!」 「どこに投げているの」 明後日の方向に飛んでいくナイフ。 だが次の瞬間、ナイフは空中で制止し、反転して少女へと向けて奔る! 「だから、どこに投げているのと聞いているの」 しかしそれも焼け石に水。 彼のナイフは彼女に当たる前に凍り付き、粉々に割れてしまった。 それでよかった。 少女は、失態をしてしまった。 「!?…ああああああ!」 「激痛を伴う猛毒。ま、普通の毒ならお前には全く効かないんだろうが、これは特別性だ。すぐに家に帰ってママにでも解毒してもらうんだなfunf」 「こ…の…!できそこないの癖に…!」 「おやァ?毒の配分間違えてましたかァ?」 「いーや、問題ねーよ美作」 少女の背後に、いつの間にかにたにたと下卑た笑いを浮かべている男がいた。 砂金美作。 彼は大和である事件で消息不明になった後、飛鳥の海岸沿いで漂流してた所を水鏡に拾われ、命の恩人という事で同行している。 今現在の水鏡の最強のパートナーだ。 ちなみに助けたのは俺だという事で、敬語無しの対等な関係と水鏡が勝手に決めている。 「いやァ、問題大アリですよォ」 急に両手を挙げる砂金。 砂金は水鏡の投げた、現在進行形で毒をまき散らしているナイフを突きつけられていた。 「大体、お前の毒ってこの範囲だろ?…今回は痛み分けってことで、大人しくお前らも退いてくれないか?」 「…やってる事と言ってる事が、あべこべすぎませんかァ?」 「…分かったよsechs、俺の方が負けだ。美作を解放しろ。その代わり、もうfunfには手を出さない」 「話が分かるね」 人質交換。 まず少女から水鏡が離れる。 すると、sechsという男が毒が蔓延しているナイフごと握り潰した。 毒はピタっと止み、funfよりも格の違いをまじまじと見せられる。 「…面目ございませンねェ」 「気にすんな。どーせあの女の事だ」 砂金と水鏡は、解放されてすぐ、体勢を整えじりじりと近づいてくる少女に押され、船の端まで追いつめられる。 funfに手を出そうものならsechsに迎撃されるだろうし、逆なら勝てる気がしない。 「俺らはfunfに手を出さない。お前は美作を解放する。ったく、割りにあわねーっての」 「選ばせてあげる。氷像になるか、大海原のど真ん中で漂流するかを、ね」 背後は海。風も強くなり、この辺りで有名な台風、ティフォーンが来そうだ。 ついてねーな、と小さく呟くと、砂金の首根っこを掴んで海に向かって飛んだ。 「もし生きて帰ったら、地獄のダンスに招待してやるよ!」 「ちょっとォ、また漂流ですかァ!」 「男の子なら我慢しろ!」 ドボン、と二人分の水の波紋が作られたのを確認すると、funfは沈んでいく水鏡達に追い打ちのように氷塊を生み出し飛ばした。 暫く待つが、彼らは浮かび上がってこない。 となると、死んだか『あの地へ』引き込まれたかのどちらかだ。 おそらく水鏡もこの海のポイント通過を見越して、今funf達をこの甲板へ誘い込んだのだろう。 「永久の箱庭から出る事ができたなら、その誘いに乗ってあげましょう」 とfunfは笑って、客室へとsechsと共に戻って行った――。 ◆水鏡流星 異次元帰還後、各地を転々と渡り歩き『組織』に対抗するべく機会を窺っている。 途中、漂流している砂金美作を助けた事が切っ掛けで、彼が水鏡の旅に同行してくれるようになったため寂しさは無い。 funf達に襲われ、海に飛び込み漂流した先で再び悪魔を巡る大きな事件に巻き込まれる事になる。 ☆ 出港の日。 メロウの港に停泊している豪華客船エルスール号の桟橋に、荷物を持った天瀬麻衣、桐石登也、烏月揚羽、志島武生の四人は、見送りに来た面々に囲まれていた。 「久遠さん…怒ってる?」 「別に」 麻衣に直接頼まれ、既にハンターではない揚羽と武生。 それどころか、揚羽は手配されている身。 だから心配していると思いそうだが、実は違う。 彼女のお腹には新たな命が宿っているのだ。 「でも、なんだかまた大きな事にマイティが巻き込まれそうでさ…。大丈夫、すぐ戻ってくるから!」 「期待しないで待ってるよ」 「ひっどーいっ!」 そんな他愛ない喧嘩をすると、お互いにふっと微笑んだ。 その後ろで、この日のためだけに飛鳥にやってきた紫堂陽人がジト目で二人を見ている。 「イチャつくのはいいんだけど、君達犯罪者だからね?周りの目も気になるし、もっと遠慮してね?」 「あ、いたの、はるちんっ!?大丈夫だって、わかってるよ!…わざわざ見送りに来てくれてありがとね」 「はぁ、づっきーは犯罪者になるし、こんな場面由貴ちゃんがみたらなんていうか…」 「大変だね」 「誰のせいだと思ってるんですか!!てか本当に犯罪者の久遠…さん?」 どうやっているのかはよくわからないが、祈那の光の魔導の力で、一部の人間以外には久遠の顔に見えていない状況らしい。 揚羽にとってはきちんと久遠が見えているので、そこらへんの事はよくわからないが、陽人には別人と揚羽が話しているように見えているようだ。 「久遠さんも、ありがとう」 「メロウに用事もあったからいいよ。行ってらっしゃい」 「すぐカッとなって暴力揚羽になるんだから、冷静さを身につけてこいよー!」 「えへへ、行ってきます!…はるちんは帰国したらグーパンね!」 「ひぇぇ…」 嬉しそうにそう返すと、揚羽は桟橋から船に上がる。 手を振りつつ、他の者が乗るのを待ち。 ◆紫堂陽人 異次元帰還後、紅のハンターとして相変わらず健闘中。 Cクラスハンターになったのを切っ掛けに、教師の資格を取り神風学園の教師を目指して勉強も頑張っているようだ。 ☆ 「あー…えっと」 「…別に無理して話さなくてもいいぞ」 「む、むむ無理なんて…してないですー!」 一方では、武生が英カリンと来海セナと会話していた。 …と言っても、接点があまりないため、ぎこちなさが誰から見ても明らかだったが。 「蒼氷さんの見送りだろ?あっち行ったほうがいいんじゃないの?」 「蒼氷先輩は、エスタルドのお偉いさんと話してて見送りできそうにないから…って違うっすよ!?俺達は志島さんを見送りに…」 それでも見送りに来てくれた二人に、感謝の意を込めて笑うと二人の頭を撫でた。 自分を見ていた水鏡流星も、こんな感じだったのかな、と思いながら。 「そういや、英は行成と連絡とってるんだって?」 「あ、はい。ハナちゃんと、あの異次元空間で仲良くなって…今はお互い忙しいので、来年辺りにまた大和に行こうかと思ってます」 「いいんじゃないか?異文化交流。来海は?」 「俺は別に、連絡とってる人とかはいないっすけど…」 「てっきり、ヨミ辺りと今でも連絡とってるのかと思ってた」 と言うのは武生なりの冗談だが、誰かしら連絡をとってるものと思っていたから意外だった。 そういえば、彼も大和に帰国していた時に、安全祈願のお守りを買うのを忘れていたのを思い出した。 藤八沙耶の神社で買おうと思っていたので、やっちゃったな、と思いつつ自分のポケットを探る。 「じゃ、はい」 「え?なんですかこれ」 「ナイフ」 いやみたらわかるし…と苦笑するセナに、武生は笑う。 かつて水鏡から託されたように、こういう縁も面白いだろうと。 「また再会したら、返してくれればいいよ。いらなかったら棄ててもいいし」 「はあ…」 と、出港の合図が。 そろそろか、と武生は船へと上がっていく。 「志島さん!」 セナに呼び止められ、振り返る。 何を言うか決まっていなかったのか、暫しの沈黙。 「行ってらっしゃい!」 「行ってきます」 ふっと笑って返すと、愛車に背中を預け、手を振る彼らに手を挙げた――。 ◆英カリン 異次元帰還後、軍学校を卒業し軍人に。 大和にいる友人に、時折会いに行っている。 ◆来海セナ 異次元帰還後、軍学校を卒業し同じく軍人に。 志島武生と今回の縁がきっかけで、数年後、彼のレースを見に行くことに。 ☆ 「麻衣…気を付けて行ってきてね」 「なんなら寂しかったら俺が一緒についていくよ麻衣たん?」 「ファニー…一度大和に戻ったんやなかったの?」 ファニー・マッドマンの言葉に、麻衣は呆れた視線を送りつつ「今日は麻衣たんのお見送りに、特別に」と照れながら返す相手に、内心はわざわざ飛鳥まで見送りに来てくれた事に少し感謝しつつも、それを表に出さないようにする。 牧本シュウの方を振り返ると、少し笑んで見せて。 「シュウも私がいない間、元気にやっててね。一人だとバランス悪い食事ばかりになるし」 「ケッ!人前で見せつけてくれますなあ!!夫婦トークとか死ね!」 「そ、そういうつもりじゃないんだけれど…」 心配したつもりが、心配し返されたシュウは悪態をつくファニーに苦笑を返しつつも、少し沈んだ顔になる。 どうしようかと迷っていたようだが、決心したように口を開いた。 「ねえ、やっぱり僕もついて行った方が…」 「ダメだよシュウ。明日から1ヶ月の間、大和であった災害復興支援に行くんでしょ?救助の人手は多い方がいいし、私なら心配いらないよ」 「そうですよ。俺達の分まで頼みますよシュウさん!」 麻衣だけでなく、登也にも頼まれて目を閉じ頷くシュウ。 笑みを向けながら、もう一度強く頷き。 「…うん、そうだね。麻衣達も、気を付けて」 「うん、じゃあ行ってくるね」 「…ファニー、どうした?最後に最愛の天瀬さんに声かけなくていいのか?」 麻衣とシュウが旅立ちの挨拶をしている最中、茶化すように黙っているファニーに声をかける登也。 しかし、彼が麻衣に掛けた言葉は予想外の言葉だった。 「おそらく、そろそろ事件。俺は手助けできないけど、無事を祈ってるよ麻衣たん」 「事件?それってどういう…」 「俺とめっちゃ仲悪い四人の悪魔。何も無ければそれでいい」 「もっと、確信を突いた内容で言ってくれよファニー」 登也に、目を細めて見るファニー。 そして、じゃ。と最後に手を挙げると去っていく。 「なんなんですかねぇ、ファニーの奴」 「まあ、大体の想像はつくけど」 麻衣は自分の聖痕に触れると、そろそろ出向の合図が鳴ったので、桟橋から船に向かう。 登也も一足遅れて、続けて上がっていく。 途中、呼び止められた気がして一度振り返り、意外な人物を見つけて笑みが零れ。 「麻衣!行ってらっしゃい!登也も!」 「行ってきます、シュウ!」 「シュウさんも頼みましたよ!行ってきます!!」 登也はこの港に響くような声を張る。 おそらく、その声は『彼』に届いただろう。 こうして、皆を乗せた船は出港したのだった――。 ◆天瀬麻衣 異次元帰還後、大和で医師免許取得のため勉強を再開。 無事合格した後、飛鳥に渡り牧本シュウに会いにいく。 今回の事件により五ヶ月程消息不明になるが、帰還後は飛鳥ギルドの救護班に移籍し、最終的には医師免許を活かして開業をする。 ☆ 太陽の光が照らしつける。 波の音が耳を掠める。 目を開けると、何処かの砂浜だった。 桐石登也は砂を吐き、ゆっくりと起き上がると辺りを見渡す。 「え…?なんだここ…?カノン!」 登也の声に、名前の主の反応は無い。 蒼氷カノンが別のメンバーと合流したとは知らず、登也はつい先ほどまでの出来事を思い返した。 確か、カノンが暗殺者に襲われていたのを助けた。 そう思ったら、ティフォーンと呼ばれる台風に巻き込まれて…。 考え込んでいると、足元に板金が流れ着いた。 その金属には『Elsur』と書かれている。 エルスール号ので間違いないようだ。 「マジかよ…漂流、ってことか…」 おそらくあのティフォーンで難破したのだろう。 だとしたら、一番生存の可能性が高いのがカノンだ。 ハンターカードが無くなり、水中で呼吸ができなくなった今、彼女が水中でも呼吸が可能な魔術アイテムを持っているからだ。 そうなると、彼女も同じようにこの地へ漂流しているかもしれない。 最悪の可能性は考えたくはないが、他の者も同じように漂流している可能性だってある。 登也が無事に漂流…というのも変だが、こうして今、この場に立っているわけなのだから。 「だとしたら、ここで立ち止まってても始まらねぇな…!」 最悪な事に、彼の武器『ブラックドック』は彼の手元には無い。 此処からは体術と魔術で切り抜けるしかないだろう。 自分の現在の状況を確認し、砂浜を駆けていく――。 ☆ 10分くらい走りぬいただろうか。 思ったより体力が落ちているようで、既にかなり息切れをしている。 しかし走り続けた甲斐もあり、海岸線が終わりを告げ、深い森への入り口に差し掛かろうとした時。 登也の周囲を囲む気配を感じた。 「グルルル」 「…ま、当然魔物もいるよな!」 4体程の狼型魔物。 見た事の無い種類だが、土地勘の無い森に誘い込むわけにいかず、また海岸沿いで見晴らしがいいこの場所では、逃げきるのはまず不可能。 戦うしかないだろう。 先手必勝と言わんばかりに、貫糸を一番手前の狼に発動しようとしたが、彼の魔術は発動しない。 「…な…?!」 「グルァッ」 一瞬狼達も構えたが、何も起きない事を確認すると手前の狼が登也を襲う。 間一髪、回避し狼の頭を拳打で叩き落す。 「グルルルル…」 「うおっ!?なんだこいつ!」 普通の狼なら、登也の一撃で落ちるはず。 雑魚魔物の一種と思われる魔物の癖に、異常な耐久力と言えるだろう。 「なぜかは知らないが、魔術が使えないとなると…体術で切り抜けるしかねえよなあ!」 一斉に跳びかかってきた二匹を、一匹はいなし、もう一匹は近くに落ちてた大きめの岩を口に突っ込んで口を閉じれなくしてやる。 その際腕に傷ができたものの、かすり傷レベルだ。まだ戦える。 口の岩を取ろうともがいている狼の頭上に蹴撃を放ち昏倒させる。残り三匹。 「くそっ、きついな…」 「ガルァッ!」 体力が落ちるのが早い気がする。 先程まで走っていたせいか、それとも漂流で体力が奪われていたのか。 三匹同時に跳びかかってきた狼達に、一匹は回し蹴りで対処。倒しきれてはいないが、遠くに吹き飛ばしたため少し余裕ができる。 残り二匹を倒すべく、すぐに体勢を戻そうとする登也だったが、その場にずっこけた。 思った以上に体力の消耗が激しく、疲労で体が思い通りに動かない。 「グルルルル…」 「ハハ…こんな狼風情にやられるなんて…カノンに申し訳が立たねえよ!」 倒れこんだ登也の体が、狼二匹に押さえつけられる。 そのうち頭の方にいた一匹が、登也の喉元を食いちぎろうと牙を突き立てようとした瞬間を見計らって、登也はヘッドバッドを狼に繰り出した。 さすがの狼も鼻骨をやられたせいか、苦しそうに暴れ出す。 だが、もう一方の狼は足を狙って牙を突き立てようとした。 足をバタつかせても、器用に回避する狼。 もう一匹の状態を見たせいか、頭に近づくことはしない。 「獣の癖に知恵が回るなあ…!」 回し蹴りで跳ばした狼がいつの間にか登也の腹付近にいる。 これで1対2。 絶体絶命を覚悟した時、錆びた剣が飛来し腹傍にいる狼を貫いた。 「これを使え!」 「お前…!?…今は礼を言っておくぜ!」 声のした方を見ると、そこには予想外の人物が立っていた。 すぐに右手で狼に突き刺さっている剣を抜き、横一閃。 ウバルはもちろん、諏訪戒人にも訓練で教え込まれた剣術。 使う機会は無いと思っていたが、意外にもその機械は巡ってきたようで。 足下にいた狼には回避されたが、回避したのを見計らい助けてくれた人物が双刀で切り刻んだ。 どうやらいつの間にか残りの一匹もその人物が片付けてくれたようだ。 「ふう…何とかなったな…。ありがとう。でも、なんで助けてくれたんだ?ええっと…」 「エスタルド軍機密部隊、ダンテ・トルナード二等兵だ」 素直に言ってくれちゃうんだ!?って突っ込みたかったが、まあ助けてくれた相手に無粋だと思ったので言わず、自分も名乗りながら差し出してくれる手を取り立ち上がる。 「桐石登也。ハンターだ」 「ほう。ハンターとは珍しいな。飛鳥でも最近、ハンターギルドができたとは聞いたが…」 「知ってるのか?って、外国語が上手いね」 普通に大和語――というと同じ言語の飛鳥や出雲の人に怒られるかもしれないが、それで話が通じる事に驚きつつ褒める。 すると男は得意げに鼻を鳴らす。 「俺は軍で一番頭がいい。これでも世界十八言語のうち十一をマスターしている。ただし古代語は除く」 「お、おう…」 変わった奴だなあ、と思いつつこれからどうする?と自然に聞いてしまった登也。 一度は命を狙われたとは言え、こうして和やかなムードなら殺しに来ることは無いだろう。 「そうだな…キリイシ、と言ったな。俺もついて行こう」 「俺としちゃあ助かるんだが…その、いいのか?」 「何がだ?」 本当にわかっていないようで、不思議そうに聞き返す相手に「いや、なんでもない」と笑って返す。 これから深い森に入るというのだ。仲間は多い方がいい。 暗殺者として裏切る可能性があるとしても、だ。 「…なあ、もし暗殺対象を見つけたらどうするんだ?」 「愚問だ。その時は再度暗殺を実行するだけだ。それが俺の任務であり、使命なのだ」 余程暗殺者に誇りを持っているのか、得意げに語る相手。 まあ嘘をつかれるよりは素直でいいか、と諦めながら、彼と共に深い深い森の中へと登也は進んでいった――。 ◆桐石登也 異次元帰還後、飛鳥ギルド支部へと移籍。 大和には足しげく通い、ウバルとチェス勝負だったり、天城宗次郎に面会だったり、小此木剛毅や諏訪戒人に訓練をつけてもらっている。 蒼氷カノンの依頼により、護衛として今回の件に同行。 漂流に遭い、5ヶ月間行方不明となる。 最終的なハンタークラスは「A」で、晩年は後輩の育成に励む。 「白帝王」「雷帝」「撃墜王」と様々な異名を持つくらい、生涯をハンターへと捧げていた。 ☆ 「もっと全力で走れよ武生!」 「やってるよ!ってか無理に二人乗ってるからスピード落ちてるんだよ!」 武生の愛車を、二人乗りで走らせる。 一人漂流していた武生を、水鏡が見つけたのが事の始まりだった。 感動の再会もあったもんじゃなかったが、彼は巨大な竜に追われていた。 大和の五大竜とは違い、知能などあったもんじゃない、野生本能しかない竜に。 「おーおー、昔は可愛げがあったってーのに、今はこんなになっちまってからに」 「水鏡さんのお陰でね」 お、言うじゃん。と水鏡は笑うと、ナイフを取り出して竜の目をめがけて投げる。 見事命中させると、竜は怯み追ってくるスピードが落ちた。 「っし命中!今がチャンスだぞ!」 「了解!」 ある程度振り切ったのを確認すると、山道をそのまま下り続ける二人。 会話をする時間はあると判断したのか、走行したまま水鏡が武生に叫ぶ。 「そういや、お前のレース見たぞ!素人な感想しか言えねーけど、よかったじゃん!灼の曲か?お前ら有名になったなあ!」 「それはどうも!それよりも、ここはどこなんだ!?」 「知らねー!美作も無事だといーんだけどなー!!」 「え!あの人もここに来てんの!」 「多分な!つーか俺にはお前のバイクも一緒に来てんのが驚きだわ!」 漂流物として、武生が流れ着いた海岸に一緒に流れついていた彼の愛車。 と言うより、愛車の積み荷を守るように抱えていたから、積み荷が浮き輪代わりになっていたのかもしれない。 「商売道具だしね!」 「言うじゃん武生!今はそれのおかげで助かったぜ!」 ドゴォン、という轟音と共に、竜が跳んできた。 一度何が起こったのかわからず、水鏡が振り返り、叫ぶ。 「武生!もっと出せ!!追いつかれるぞ!!」 「やってるってば!」 「って前!!崖!!」 「…しっかり捕まっててよ!」 バイクを少し右側にあった段差から跳ばし、向こう側の崖に着地する。 しかし、それでも竜は跳び越えて追ってきた。 「死ぬかと思ったわ!ってかしつけーな!!」 「なんとかならないの!?」 普段ならば、サウザンドフラクタルですぐに仕留めるはずだった。 だが、この地はどうやら魔術も特殊技も使えないらしい。 簡単に言えば、レベルが今までが100なら1になったような感じだろうか。 身体能力も基礎的な部分はそれなりにあるものの、日々魔力を運動能力に変えている部分もあったため、今までより圧倒的に能力が落ちているのを二人は実感していた。 「まあ任せな!」 そう言って取り出したるは、やはりナイフ。 また目を狙うのかと問い質そうとした時、懐からもう一つ小瓶を取り出し、走行中のバイクの上で器用にナイフの先端に塗っていく。 「…それってまさか!」 「その通り!分量は美作に聞いてるから、こんなのが目にあたったらそりゃあもう苦しいはずだ!」 「ざっくりしすぎててよく分かんないんだけど!」 「猛毒ってこと!」 と言った瞬間、一滴地面に落ちる。 シュワーという音と共に地面が少し溶けた。 「バイクの上に落とさないでよ!!」 「心配すんな!大丈夫だって!武生、Uターン!」 チラチラと水鏡を見つつ、Uターンする。 目の前には大型の竜。 「覚悟決めろよ武生!」 交差する瞬間、水鏡は再度器用に竜の目めがけてナイフを投げる。 そして、武生も竜の足の隙間を縫うようにバイクを走り抜ける。 「グギャアアアア!」 ナイフは見事に命中し、竜は悲鳴をあげその場に倒れた。 「っしゃあ!」 二人は歓喜し、ハイタッチをし勝利を喜んだのだった――。
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第零階層攻略開始 「…う…ここは」 「あ、やっと気が付いた」 柳茜が暑さにより目を醒ますと、辺りは溶岩が溢れた場所となっていた。 『煉獄』。始祖の悪魔ロノウィはそう言った。 「とんでもないね」 言い得て妙だ。 火山と似たような場所ではあるが、それだけではない。 背筋を寒くさせるような、何らかの強い力が働いているのが分かる。 まさに煉獄、地獄を彷彿とさせる。 「…で、何でエレナがいるの!」 「あたしだってわからないよ!ただ、あたしも気が付いたらここにいて、目の前にアカネが倒れてたの」 まず、自分に膝枕をしてくれていた松原エレナの疑問を解消する。 茜のよく知るエレナの性格そのままだったが、驚きはなかった。 なぜなら、水鏡流星というケースを既に見ているからだ。 最初こそ驚いたものの、なんでも有りのこの空間に突っ込むのが野暮なことは、既に理解している。 「でも、アカネの協力をするためにここにこうして存在してるのは、理解してる。一人より、二人の方がいいでしょ?」 「まあいいけど」 二人は、改めて地獄のような周囲を眺めた。 茜は一回目を閉じ、そして開く。 「それじゃ、始めよっか!」